ブルース・リー
ブルース・リーが武道家として示した態度は、「武道」への批判であった。リーは、自ら創出した「武道」である截拳道の理論化=体系化をもくろみ、それについての膨大な数におよぶメモやイラストを遺している。日本人の武道家である風間健という男が、リーの遺した截拳道に関するファイルを、一九八〇年に『魂の武器』という一冊の書物にまとめている。これは風間自身が一九七六年に編纂し出版した、『截拳道への道』というおなじ資料をもとにして編まれた本にたいして、読者からあまりにも難解すぎるという意見が多くとどいたため、編みなおされて上梓されたものである。両書の内容にどれだけの異同があるのかは『截拳道への道』が手元にないためにわからない。わからないといえば、『魂の武器』の「まえがき」によると、フェルディナン・ド・ソシュールのように、リーは截拳道の全体像をまとめた著作をついに発表せぬまま他界しており、入手についての経緯がとくに記されているわけでもない風間の集めた資料が、はたして「原資料」とよべるものかどうかもわからない。というわけでここでいう『魂の武器』という武道書の著者とされているブルース・リーは、映画のなかでの彼のように虚構の存在である。虚構の存在だからいい加減なことをいってもよいだろうというのではない。虚構の存在なのだから、武道家ブルース・リーという幻の曖昧な輪郭を、具体的になぞってみたいのだ。
このあと、シャドーボクシングにおける個の存在などの議論が延々と続いてニヤニヤした思い出がある。
そのブルース・リーの人生訓なるものがあるという。日本語の方では一部しか紹介されていないので、せっかくなのでオリジナルのサイトから以下のリストを抽出。へたくそな瞬間訳、講評もつけてみました。上の日本語のサイトみたいなかっこいい訳ではありません。あしからず。でも、言葉のかっこよさだけにだまされるってものあるし。
1.「考えるにつれて、お前はかようなる存在になるだろう」
- “As you think, so shall you become.”
- ある人がダリに「天才になるにはどうしたらいいのでしょう」ときいたら、ダリは「まず自分で自分が天才であると確信すること」といったそうである。
2. 「日々の増大ではない、減少だ。本質的でないものは切り落とせ」「ひとつのことを長い間考えすぎると、それを成し遂げることは決してできない」
- “It’s not the daily increase but daily decrease. Hack away at the unessential.”
- “If you spend too much time thinking about a thing, you’ll never get it done.”
- たいへんな体育会系発言である。「くよくよ考えるな、為せば成る」あるいは「案ずるより産むが安し」とのことなのだが、1と若干矛盾しているように思える。まあ、長すぎてはいけませんというだな。
3. 「己を知るとは即ち己が他とどのように関わるかを知ることである」
- “To know oneself is to study oneself in action with another person.”
- 孫子のごとし。社会的存在が意識を規定するといったのも誰かさんでした。
4. 「誰が正しい、間違っている、あるいはより優れているかなんてことは考えるな。それと共に、とかそれに対して、ではない」
- “Take no thought of who is right or wrong or who is better than. Be not for or against.”
5. 「私はあなたの期待に応えるためにこの世界に生きているのではないし、あなたは私の期待に応えるためにこの世界に生きているわけではない」「虚飾はアホの考える栄光である」
- “I’m not in this world to live up to your expectations and you’re not in this world to live up to mine.”
- “Showing off is the fool’s idea of glory.”
- ごもっとも。アイデンティティを自分だけで紡げるようになればすばらしいことである。
6. 「状況と共にあることは地獄への道。私はチャンスを創る」
7. 「自分自身たれ、自分自身を表現せよ、自分自身を信頼せよ、うろうろと成功した人格を探しコピーしようとするな」
- “Always be yourself, express yourself, have faith in yourself, do not go out and look for a successful personality and duplicate it.”
- 司馬遼太郎の小説読んで、自分を明治維新の時の政治家にひきくらべちゃう今の政治家。
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とまあ、全体ながめてみたら、アメリカの自助努力思想(Do it yourself)+プロテスタンティズム的なストイックさ、および中国的な思想若干、にみえる。アメリカに暮らす中国人として体得した渡世術なのだろうな、という感想。あるいはそもそもこれらの言葉をピックアップしたのがアメリカ人だから(いわく"Here are 7 of my favourite fundamentals from Bruce Lee.")、ということかもしれない。(追記:ブログの人はスェーデン人でした)いずれにしろ、阿部和重の『アメリカの夜』の冒頭部分のブルース・リーの方がおもしろいことは確か。というか、単にこの本を紹介してお勧めしたかったということです。
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