拮抗の力学


ハンドルが付いているのに曲がれない車みたいなものだ。進行方向の目前に障害物が見えているのに、ハンドルにしがみ付いている人間が10人ぐらいいて、結果、右にも左にも回せない。その10人の1人1人は、迫りくる障害物がよく見えていて「あー、ぶつかるー!」とだれもが思っているのにもかかわらず、他の人々がてんでにハンドルを握っているのに声を掛け合いながら協力しようとしない。したがって、ハンドルを回すトルクが全体で拮抗してしまい、動かないのである。個人としては有能でも集団としては極めて無能。

何故こうなるのかというと、「おまえらハンドルから手を離せ。私がハンドルを切る」と声を上げたものを片っ端から潰していった結果である。かくして車は障害物に衝突大破、バラバラになった個人がまた自由に運転しだすのだろう。そうこうして上手に動き回る車のハンドルには徐々にしがみつくものが増え、曲がりにくくなり、ハンドルを切ろうとする人間が排除され、車は再び衝突大破、というなんかしょうもない栄枯盛衰ダイナミクスが繰り返される。