生理だといえない世界

その女性が言わないのは、上記にあるような理由がいくつか複合された「言えない雰囲気」があるからではないでしょうか。この「言える雰囲気」をつくるのは、ものすごく難しいと思っています。部下が不満や改善点を率直に言える組織ってそれだけで素晴らしいし、そんな組織を作ることができればそれだけで、その会社の生産性なんて簡単にあがると思ってます。
何で女性が生理関係の予定を伝えないことが多いか

私が経験した「生理中である」と女性が明言する世界は日本の大学院だった。大学院生の仲間がソファに倒れこんで、石のようになっていて、あー、あれの日かー?ときくとそうだ、うー、との答えが返ってくる。徹夜で実験をしたあとに眠っている人間は爆睡のオーラがでるものだが、生理でうごけなくなっている女性は、どうも石のようになる。様子がちがうのである。
大学院でなぜそのような会話が普通に行われていたのか、と考えてみると、日夜研究室をうろうろしているものだから、生活共同体にもひとしく、日常と仕事場が大幅にクロスすることになる。昼飯も夕飯も、はたまた飲みに行くのも一緒になることが多いわけで、何年も一緒に合宿しているような状態だ。生物学系の研究室は女性が多いということもあるかもしれない。生理の重い人は隠すの隠さないのよりもとりあえずぶっ倒れて、電気泳動がおわるまでオヤスミ、みたいなことになるのは、そうした特殊な仕事環境にあったと思うし、生理だ、と明言することにあまり障壁がなかったのも、いわば合宿状態が延々と続いていると考えれば自然なことかもしれない。一方で、そうした会話をかわすことのない女性もいたが、これはその人の性格によるものなのか、生理が軽かっただけなのか、わからない。会社ではなく尋常ではない3Kの研究機関なので上でいうような「言える雰囲気」とは違うかもしれないが、ないわけじゃないよな、と思い出した。この日本の大学院の例はいわば、とにかく研究室にいること、研究を続けることが体の都合よりも優先されているから起こることである。日本の会社とこれはあまりかわらないのだろうけれど、合宿状態に限りなく近い研究室はリラックスせざるをえないジャージで通勤的なギリギリの状況である。それが「いえる雰囲気」ということになる。なんにしろ、問題なのは出勤に対する強迫観念ではないか。
ヨーロッパの場合を考えてみると、女だろうが男だろうが、突然こない日があるのはあまり異常なことではない。その理由がなんなのかは、周りの人間はあまり気にしない。調子が悪いんで休む、といえばそれで済む。あるいは、そうした形でたとえばセミナーがキャンセルになっても、ああそうですか、で終わりで、次の日にその人がちょっと来にくいといったこともない。この状況だとわざわざ「生理で調子が悪い」と明言する必要はない。単に「調子がわるい」でおわりなのである。つまりこれは第三の世界、「生理だという必要のない世界」である。