スラブ語圏

スラブ語圏なるものを意識しはじめたのはポーランド人やチェコ人、ロシア人と飲んで乾杯する際に、国によって微妙に言い方が異なるので、「あ、それチェコ風」とかいちいち指摘されるためである。ロシア語の場合は「ザストロビエ」だが、ポーランドだと「ナストロビエ」。ポーランドチェコも違うのだが、日本語で表記できないような小さな違いである。またポーランドチェコだと「ビールください」が「ピエシピボ」だが、スロベニアに南下するとそうはいわない、のだそうで、でも似ている(どんな感じだかわすれてしまった)。東欧の来たから南に向けて存在するスラブ語圏とその中でグラディエント状に変化する言葉に、言語学の教科書的だなあ、などといつも思っていた。
先日夜、家のすぐちかくの川べりに座り込んでスコットランド人、スロベニア人やフランス人他数人とビールを飲んでいた。各国語で乾杯などしているうちに、上記の「ナストロビエ」も登場したわけなのだが、それで上記のスラブ語グラディエントのことを思い出してスロベニア人に、スラブ語圏の大元ってどこなわけ、ときいたら、物理専攻のスロベニア人はよくしらないけど云々と説明し始めた。それをきいていた顔見知りのカナダ人がやおら、「私の前でそんな間違った説明をするとは」と言いだした。実はこのカナダ人、言語学の教授なのだそうで(煙突みたいにパイプで煙草を吸いまくるただの酔っ払いとばかり思っていた)、スラブ語圏の展開のあらましをおよおそ30分かけておしえてくれた。さすが専門家だけにこれが実におもしろい話だった。5世紀ぐらいに始まる今のウクライナあたりからのスラブ語族の大移動と拡大、今で言うハンガリー人がそのど真ん中に侵入して言語の楔を打ちこんだ話(ちなみにハンガリー語での乾杯は「エゲシュエゲドレ」なるまったく違う言葉である)、バルカンへの侵入、東西南スラブ語圏のそれぞれの発達、などなど、言語の展開の歴史は東欧の歴史そのものだ。いやー、いい話をきいた、のだが、酔っ払って細かい内容を忘れてしまった。家に帰ってネットなぞ眺めて少々復習。

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