シンガポール2

ミュンヘンで院生だったころに一時期足繁く通っていたタイ人のやりて姐さんが経営する売春宿があった。厨房の香港人シェフが作る飯を食いにいっていた。朝2時でも飯が食えるということで、とある知り合いの紹介でそんなことになったのだが、女を買ったことはなかった。あひるの水掻きの煮凝りなどといった中華料理の絶品を食ったのはこの香港人シェフのおかげだった。
厨房には小さなテーブルといすが三脚ほど誂えられていて、香港人シェフとおしゃべりしながら彼が作るものを食べさせてもらう。客席、というよりも知人のためにあるような場所だったので、椅子は昔の場末のラーメン屋にあったような三脚のビニール張り、背もたれなしの椅子だったし、飯の料金も取られたりとられなかったり。飯がタダになるのは客席のほうで男同士の喧嘩や、酔っ払って破廉恥な行動に走る男がしばしば勃発し、ちょっときてよ、とマネージャーのおねえさんに呼びだされて止めに行く、といったその場しのぎの用心棒役をやらされることがあったりしたからなのだが、おかげで売春宿とはいったいどのような場所なのか、ということを裏側からよく勉強できる機会になった。男にあぶれた売春婦の女の子たちとパーティーになって明け方近くに騒ぐ、という技術というか遊びを覚えたのもこのころだった。
シンガポールに来て、パブで知り合いになった孤独に病んでいるらしきバンガロー出身のインド人プログラマーに朝2時に連れて行かれたのがやはり上の売春宿のような場所で、雰囲気がまったく一緒だったのでなんか懐かしいなあ、と少々しみじみしてしまった。どさまわりのバンドがアメリカのロックミュージックを激しく奏で、女の子たちが観光客の間を巡って秋波をがんがんとばす。ヨーロッパ人の男が、小さなアジア人の女の子たちにめろめろになっている。そうこうしている私はといえば、昔取ったキネツカでなかなか相手を見つけられない6人組のマレー人売春婦たち騒ぎ始めて、おかげでシンガポール到着の当夜は、朝まで飲み大会、ということになってしまったのだった。長い集中講義なんで、一日先に来て休んでおこう、と思ったのが、かくなるただの飲み会という結果になった。まあ、よかったのかな。というわけで明日から仕事である。

本日は樂膳なる和食の店に。気持ちのいい長いカウンターの席がある店で、刺身だのホタルイカの沖漬けだの食ってきた。さすが、日本が近いだけあって、うには北海道産なのだそうである。日本人の板前はいなかったけれど、日本人のチーフがしっかりしているらしく、店で漬けたぬか漬けなどなかなかのものだった(塩がちょとききすぎかも。オーダーする人があんまりいないんだろうな)。

http://www.asiax.biz/gourmet/6333-1171/