池澤夏樹さん

フランスに移住したのだとか。欧州仲間で少々親近感。そういえば以前、日本の作家の亡命フェチというトピックがあったけれど、相変わらずなのかな。作家関連でいうと、平野啓一郎さんも目下パリに住んでいるとか。ドイツはどうも人気がない。

日本を離れることもあって、時局に速やかに応答するよりは広い視野でゆっくりとものを考える。思索的な日記のようなものになるのではないかと思っています。

いまどき欧州だったらどこにいても情報は手に入れようと思えば手に入るので、あえて自分で情報から距離をおかないといけない、という部分はどこにいても関係がないと思う。情報からの距離を置くのか、あるいは情報の膨大なフラックスに身を任せながらも自分の視点を惑わせないなんらかの方法論を持つのか。こうした情報との付き合いかたに努力しなければいけなくなってしまった、あるいは新たな作法が要求されているのが今の時代なんだろうな、と思ったりする。
そう思う一方で、街を歩いているときによく感じるのは、街から入ってくる情報が日本よりも単調かつ控えめなので、一つのことを考えているとずっと考え続けてしまう、という点。家から研究所を往復する間 − いまでこそ車なんでそれこそずっと同じことを考え続けることになるが、特にバス通勤していたとき − 朝起きてから夜寝るまで、街の中を通過しながらも頭の中はずっと連続していた。あまりにくだらない内容ながらもその強度にへこみそうになって、冬にやたらとうつ病を発症させる人が多いのが自分でもなるほど、と理解できた。そんなこともあって、街の構成(看板、雑音、人ごみ、道の直線性)は人の考え方に実に大きな影響を与えるのではないか、とも思っている。