米国科学は衰退するか。

田中宇さん・世界から人材を集めなくなったアメリ
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これはずいぶん前から、ネイチャーやサイエンスのネタになっていたが、このとことろ米国の一般メディアでも警鐘をならす、という文調で話題になりはじめた。つい最近にもヘラルドトリビューンで記事になっていて、全米大学協会の会長だかが、アメリカは沈没する、みたいなことをインタビューで述べていた(リンクを見つけ次第アップします)。こうした警鐘は実際に私の職場での雰囲気とマッチしている。ビザのいざこざで渡米に困難をきたす人間が続出してずいぶん長い時間がたつ。こりゃ長期的には欧州科学業界に有利だな、と私も思っていた。正直なドイツの科学政策担当者は、今こそチャンス、とまで堂々とスピーチしていた。

ただし少々見極めなければいけないな、と思うのは、こうした米国メディアの警鐘が、反イラク戦争の潮流が出始めた報道の波の一部にもみえることだ。科学業界の人事が、反イラクキャンペーンに使われている、とでもいおうか。最近になって米国報道機関が寝返り始めたという点は、クルーグマンが皮肉交じりにニューヨークタイムズのコラムで指摘している(5月31日付"Second thoughts about Bush's free ride Media wish they'd been more critical"、一部をネットで読むことができる)。

上で触れた記事では、これまで米国に留学していた学生・研究者は英国やオーストラリア、ニュージーランドに流れている、との統計も報告していた。反米基調がおさまれば、いざとばかりに周辺英語圏で待機していた学生研究者は米国に流入するのではないだろうか。実際に、「米審議会 科学の現状に警鐘 外国人研究者増加に危機感」LINK などという内容の、田中宇さんや上記ヘラルドトリビューンの報道とまったく矛盾する警鐘が同じNSF(全米科学基金)から同じく最近出ている。

世界の大学を、教育を売り物として考える、という記事もまた別にガーディアンで読んだのだが、この記事に書かれていた内容は、英語圏の大学は圧倒的な売り手市場である、ということだった。世界で昨年大学に入学した人間の半分は途上国の若者であるが、これらの若者のうち大志を抱くものは英語圏の大学を目指すわけで、学生の頭数をそろえるのに英語圏の大学は苦労する必要がまったくない。人材は世界中にひしめいているのである。こうして考えると、科学の動向を一概に米国の衰退必至、とも考えられない、と思えてくる。

同様に、「外国人研究者増加に危機感」は逆に言えば米国科学業界の将来的な安定を意味しているわけで、米国がその政策として外国人排除をするのでなければ、現状とあまり変わりないのではないか(研究分野によって保守的な頑迷さによる馬鹿げた制限がかかってきている事実はかわらないが)。とはいえ、カルバラとナジャフの聖地攻撃をやってのけた政権担当者である。どうなるかわかったものではない。さらに考えれば、そもそも外国人研究者の増加に危機感を抱くこと自体が、米国の理念の否定なのである。そんなに日本の真似をしたいのだろうか?ラストサムライぐらいでほどほどにしておいたほうがいいぞ、とでも忠告したくなる。