インタビュー

うちの研究所は毎年アニュアル・レポートを出している。直訳すると研究所年鑑ですな。かなり分厚い冊子で外部から人が視察にきたときにはとりあえずこれを渡すと、その人が自分の研究所ないし役所に帰ったとき参照にレポートを書くのに便利というような、懇切丁寧かつ素人にもわかりやすい研究紹介および財政、人員構成、論文出版動向などのさまざまな統計も網羅した内容である。昨年まではグリニッジ・ビレッジ風な反米アメリカ人の人が専属で雇われていて、彼がひとりでしこしこ書いて編集していたのだが、その味わい深いおっさんがいなくなた今年からは、フリーライターに外注することになった。で、今年はワタクシの仕事も詳しくフィーチャーされるとのことで、先週そのライターの人がロンドンからやってきて、オーストリアに旅立つ直前にインタビューを受けたのである。ガーディアンとかニューサイエンティストに科学記事を書いているフリーライターとのことだったが、おそらく40代、美人でなおかつ頭が切れる方で、きりっとした美しい眼と鋭い質問とに、頭の回転が遅い私はぐたぐたと調子をはずされたのだった。今日になってそれを原稿にしたドラフトが来た。その内容はどもあれメールに「私の最新の小説をよかったらどうぞ!」と最後にあり、リンクが張られている。サイエンスライターであるだけではなくて小説家でもあるのかあ、とアマゾンUKの紹介文などを眺めていたが、最新の小説は”意識も感覚もすべて正常な状態で運動機能だけが麻痺する”という状態にある人間のサイコサスペンスな内容らしい。あのきれいな人がこんな倒錯した妄想をしているのか、とこれまたドラフトを直す手が妙にぎこちなくなってしまうのだった。俎板の鯉というかヘビににらまれたカエルというか。