スイス航空がルフトハンザの傘下に。

Lufthansa supervisory board, SWISS board of directors, and large SWISS shareholders approve the integration of SWISS into the Lufthansa Group.

孤高のスイス航空、ついにここまで挫折という印象*1。少々思い入れがあるので、自分的にはニュースである。チューリッヒ乗換えが楽、飯が比較的まとも、といった理由で以前スイス航空を愛用していた。ちょっとなあ、と思っていたのはマイレージプログラムが貧困なことだった。提携航空会社がとても少なく、次々とアライアンスを組んでいく世界の航空会社の中でちょっと異常に見えたほどだった。唯一メジャーな提携といえたのはJALぐらいだったが、それも破産する1年ほど前に解消されてしまった。そこから破産まで一直線だった印象がある。
破産したのがいつのことだかも忘れてしまったのだが、その直前にちょうど日本行きのスイス航空便を予約していた。チケットを予約した旅行会社から私に直接電話があり、破産はほぼ不可避で飛行機が飛ぶかどうかわからないからブリティッシュエアウェイズに変更することをお勧めする、という電話だったのだが、まあ、どうにかなるだろう、という楽観で私はそのまま放置していた。ニュースではジェット燃料の補給を空港に拒まれて(燃料代を回収できない可能性があるから。)飛べなくなった飛行機の映像や、我が国の飛行機会社はいったい、と困った顔で路上インタビューに答えるスイスの人たちのコメントが放映されていた。
私が搭乗したのは破産が決定した直後のことで、スイス航空のウェブサイトをのぞいたりしながら空港に向かった。私が乗る便は問題なく予定どおりにチューリッヒに到着し、そこから日本行きの飛行機に乗り換えた。チケットはビジネスクラスにアップグレードされていた。面倒を回避するためにほとんどの客はほかの航空会社に変更しており、機内はがらすきだった。ビジネスクラスの座席は前半分ほど埋まっていて、私は後ろの方に座っていた。とても和やかな雰囲気で客同士が楽しそうに会話している。普段は隙を見せない笑顔のフライトアテンダントはとてもリラックスしていて、電車のコンパートメントに乗り合わせた客同士のような雰囲気で私と会話した。いやー、もうスイス航空も終わりだし、といいながら、実は前の方に座っている人たち、ほとんどがこの飛行機の乗務員の家族なんだ、ゴタゴタしているし客もいないんで、せっかくのチャンス、格安で日本旅行でもしようか、ってことなんだ、と彼は教えてくれた。なるほどなあ、と妙に家族的な雰囲気に満ちたビジネスクラスの空間に納得がいった。
日本航空が破産、ということを想像すればわかると思うが、スイス航空の破産は、スイス国民にとってかなり衝撃的な話だった。スイス航空は親方日の丸ならぬ親方白十字という庇護のもとに重厚長大な経営スタイルを変更せず、そのことが破産につながった。私の印象としては戦艦大和が徐々にと沈んでいくような印象で、その艦橋が喫水線に消える最後の瞬間に居合わせた気分だった。一方で最後、最後といいながらリラックスしている乗務員や、楽しそうな家族は残照の最後の輝きのように見えてしかたがなかった。私は、Swissairときれいに印字されたナイフとフォークを記念に持って帰りたくなり、乗務員にもらっていいかな、と聴いてみた。すると乗務員は笑って、そりゃもう、と踵を返し、真っ白なナプキンにきれいに包まれたピカピカの新しいナイフとフォークを持ってきてくれた。「これももう用済みだしね」と彼は言った。
その直後にルフトハンザによる資金提供が決定し、スイス航空は名称を”Swissair"から"Swiss"に変更した。今後は気分を新たにがんばります、というお知らせが来たのはその直後だった。

*1:この点について、会社の吸収なんてあたりまえ、というコメントがつくかもしれない。あらかじめ言っておくと、企業としてはあたりまえの話ではあるのだが、いかにも昔風の大会社だったスイス航空の場合、それとだけではない印象を私は持ってしまう。日本でいえば終身雇用制の崩壊を象徴するような話ではないか、と思う。