ブーメランなアーミーナイフ

往路、電車を逃した、ということだけではなく、アメリカ人だらけの便だったからか搭乗手続きカウンターでのセキュリティチェックがことのほか厳しく、搭乗時間ギリギリになってしまった。荷物を預けることができず機内持ち込み*1になり、出国セキュリティチェックのとき、預ける方の荷物に入れていたスイスアーミーナイフが見つかって、「これ、ダメです」ということになった。
ものすごく焦っていたので、紙切れに氏名住所電話番号を走り書きして、X線検査しているおねーさんに、10日後に電話してくれ、とむりやり渡した。12歳の時から23年の間、どこに行くにも旅を共にしたアーミーナイフなのだが、やむなき事情ないしはどこかに忘却し手元を離れても奇跡のようになんらかのルートで戻ってくることが多いいわくつきの物品なので(名前が書いてあるわけではないのだが)、なんとなく又戻ってくるだろう、と頭の片隅で思いつつ空港のフロアを急いだ。しかし驚いたことに飛行機に搭乗して一息つくや否や、フライトアテンダントがバーコードを貼り付けたA5サイズの紙と、先ほどの走り書きの破れ紙を私のところまで持ってきた。さっそくかいね、と思いながらA5の紙の説明を読んでみると、6週間有料で預かります、という定型内容で、そんなシステムがあるらしい。成田空港で1月に大量のライター(日本のライターはいろいろおもしろいデザインがあるのでお土産にするつもりだった)がみつかって、「廃棄してください」と冷たく言われたときの対応とは格段の違いである。
復路、やたらと遅れたパリーフランクフルト便にへとへとになり夜10時近く到着、地下の駐車場の車に荷物を放り込んでから、A5の紙に従ってデポジットのセクションを探しに出た。24時間営業、と書いてある。空港の片隅にあるその場所へいってみると、係りのオヤジが眠そうにテレビを見ていた。A5の紙をひらひらさせるとその紙を受け取り、後ろの部屋に消えて、しばらく待つと大き目の封筒を持って戻ってきた。名前はなんだ、と、一応ね、という顔をして聞くので、氏名を答え、じゃあ3.5ユーロね、というので金を払い、引き換えに封筒をうけとった。衝撃吸収パッド入りの封筒は厳封されており、私は封を開けずに膨らんでいる部分をぎゅっと握ってみた。いつものあのスイスアーミーナイフの手触り。思わず口元が緩んで、”あってる!"といいながらオヤジに笑いかけた。こちらを眺めていたオヤジも私につられてニヤリとして、よかったね、とうなずき、またテレビへと戻っていった。

*1:航空会社ジャーゴンでは”ジャンプイン”というらしい。以前これよりひどくギリギリだったときに、空港の係員が長いフロアを私と伴走しながらトランシーバーに向かって”ジャンプイン一名!”と叫んでいた。