和食に太鼓判を押す

うちの研究所でも巻き寿司がでるぐらいなのだから、おそるべき和食の世界伝播力である。というわけで
海外でも正しい日本食を 農水省がレストラン認証制度?
なのだそうだ。わからないでもない。ミュンヘンあたりに行くと、寿司を扱っているバーが今や50軒以上あるのではないか。でもそのうち、通常の日本の食環境で育った日本人がまともだ、と思える鮨を握っているのは数軒にみたない。ここまで腐りかけの魚でやって鮨かよ、とか砂糖をまぶしたようなほうれん草の胡麻和えが出てくるような店はゴマンとある。中国やベトナム系経営のスシバーも、ラーメン屋のように最近はよく見かける。でも何が和食であるのか基準がないから、「これが和食です、これ寿司です」と胸を張られたらなにもしらないドイツ人は、はあ、そうですか、と納得せざるを得ない。認証制度が出来るのは、こうした詐欺まがいの和食屋を選別したいという世界中の良心的なまともな和食屋の希望でもあるのかもしれない。
とはいえ、問題もある。こうした許認可制に当然付随するのは利権であって、世界中の和食屋でただ飯をくらいまくる「和食認定官」は当然のことながら酒池肉林であろうと私は想像するし、あるいは「和食認定官」としての任命をうけることになるかもしれぬ在外大使館領事館の、現地における日本人社会階級制度(この階級制は冗談ではなくて、特に日本人の多い都市では大変な問題なのだが)の強化にも繋がるだろう。
さらなる問題は、なにが和食か、という点である。「レタスを使った」という実に狭量な罪で回状がでて、和食業界を追放になったとても優秀な料理人を個人的に知っているだけに、和食の発展を狭めてしまう事態を私は想像する。認証制度によって、広がる可能性が抑制されることになるのであればこれほど残念なことはない。ベトナム人が握った腐りかけの危険な鮨があったり、うちの研究所の米がカチカチになるまできっちり巻かれた巻き寿司がある状況も、もしかしたらなにかオモシロイことに発展するわずかな可能性に期待をかけるならば、仕方がないのだとおも思う。たとえば、カルフォルニアロールに代表される裏巻きは逆輸入の寿司、ということになるが、こうした世界的な普及度の高いレシピが出来た背景には、「海苔をアクセプトするか否か」という異文化の衝突があるのである。