原子の名前

日本の放射線防護部会の議事録を一年ぶりぐらいに眺めた。当時は事故前の議事録しかなかったのだが、事故後の議論がいろいろアップデートされていた。次はその抜粋。

米原委員】 活性汚泥で東京都などが問題になっていることを含めると、現存被ばく状況はどこまで適用するかというのは、これはちょっと議論しておく必要があると思う。
 そのような活性汚泥などが、障害防止法の定義数量を超える濃度になった場合に、どういう措置をするかということに関して放射線規制室から教えていただきたい。
【中矢放射線規制室長】 放射線障害防止法の立場からお答えすると、(広く拡散している)セシウムについては、発生元が原子炉施設の核分裂生成物である。核分裂生成物としてでてきた物については、原子炉等規制法の中の対象である。したがって、放射線障害防止法の対象ではない。
放射線審議会基本部会 (第39回)議事録
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/housha/002/gijiroku/1310660.htm

この文科省放射線規制室の中矢隆夫室長による返答は注目すべきである。文科省のウェブサイトには次のようにある。

放射線障害防止法は放射性同位元素等の取扱いの規制を行うことにより、これらによる放射線障害を防止し、公共の安全を確保することを目的とした法律です。

すばらしい法律である。放射性物質の汚染をめぐって「放射線管理区域」という言葉が一般化した。事故前までは「放射線管理区域」は特殊な空間であり、それなりの講習をうけた人間だけがそこに入って注意深く放射線物質を扱った。これを定めたのが放射線障害防止法である。事故後、あちらこちらで、放射線管理区域に指定されるべき濃度で汚染された空間になっている。しかしながら、これらの汚染は原子炉由来であるから、放射線障害防止法では規制しない、と、当の管理を行う国の責任者が放射線防護部会基本部会で述べている。文部科学省では、同じ原子でもいろいろ名前がついているらしい。恐れいった科学である。