トリノオリンピックにおけるコメント各国事情

10数年ぶりに見た冬のオリンピック。荒川静香の演技に背筋がぞくぞくするほど感動した。という話は、あちらこちらで見かけるしほとんどの人が見ているだろうからそれ以上は説明しないが、もともと舞踊系の演技は見るのが好きな私である。ライブ一回、録画二回の計3回も見てしまった。
で、なにを書こうとしているかというと、おもしろかったのは、その3回見た番組それぞれが別の国の番組だったことである。最初に見ていたのが生放送でドイツ語の解説。そのあとでアメリカの番組で英語の解説、最後が日本のNHKで日本語の解説だった。ドイツの番組では解説が極めて少ない。演技の間はほぼ無言で終始し見る側は解説がほとんどない状態で眺めることになる。演技が終わった後で、いやー、これはすごい演技でした、とか、ちょっと見るに耐えませんね、あのなんたらジャンプはどうのこうのでした、というようなかなりきついコメントまで、要するに短評がざくっと入る。
アメリカの放送はやたらとコメント、解説が入る。画面の下にはCNNなどのニュースチャンネルで見るようなテキストのテロップがずっと流れていて、関係のない為替や株の一行ニュースがひっきりなしに目に入る。技の説明はもちろんすかさず入る。荒川静香イナ・バウアーをきめたときには腰の抜けるようなコメントがさらに入った。「アーチですね。アウチ」。これを言ったのは女の解説者だったのだが、それまでひっきりなしに実況していた相方の実況担当者は絶句していた。私も喋っていたわけではないのだが、気分的にはやはり絶句した。
日本の解説は選手の人生背景苦労話などを延々と説明するところがほかと違っている。また演技中の解説はアメリカほどではないが、技を決めるたびにその技の名前が体言止めで入り、さらに選手の調子を気遣ったりするところはいやー、日本でだなあ、と私はしみじみしてしまったのだった。全体的にいえば、選手への感情移入が一番つよく見受けられる。3者比較すると、結局コメントが入らないのが一番よかった。でも音を消すわけにはいかない。音楽も消えてしまう。
コメントが入らない映像ということで思い出すのは年末にニュースチャンネルでやっていた「No Comment」という番組である。2005年をニュースで振り返る、というどこの国でもある企画であるが、コメントが一切入らない。イラク戦争ロンドンのテロの様子、津波のみの被災地域がひたすら現場の音だけをバックに映像が流れる。コメントがないのが現実なのであるが、そうした映像を見ているとなにが起こっているのか実のところよくわからないし、緊迫した状況にあるはずが意外に静かである。突然銃撃が置き、また静かになる。あるいは遠くから聞こえる救急車のサイレンが妙に印象的だったりする。私自身の経験でも、阪神大震災が起きた直後、大学が静まり返った。24時間運転しているさまざまな大型の機械がすべて運行を停止し、漆黒の中-80度のフリーザーだけが内部電源でピーピーと鳴っていた。現実の物騒な出来事は実に静々と起きていくのである。