OECD学力調査

日本人15歳の読解力が下がった、という結果だったそうで、あちらこちらで結構な議論になっている。最初にニュースをみた私は、さもありなん、なんて思った。なぜかというと、実に卑近な話だが私は日本の学生の実験レポートを毎年読んでいる。大体の毎年の学生のレベルが分かるのだが、長期低落傾向にあるなかで今年は輪をかけてひどかった。いつもながらどうしょもない学生はいる。これはいつだっている。普通に書けば膨大なページ数になるはずのレポートを三枚ですませて平気な顔をして提出する。その3枚が実にすばらしいサマリーならば私は感激するが、大抵はそうではない。なにやらみすぼらしい文章の断片がそこにあったりする。ああ、なにも理解できてないんだなあ。かわいそうに。
ということでこれはいつものことだから別に驚きもしない。今年驚いたのはそれがほとんどコピペだったことーすなわちウィキペディアだのグーグルサーチだので引っ張ってきた文章を羅列させただけーなのである。しかも、そのコピペの羅列が、優秀なDJのごとく論理的に文脈を持って並んでいるならばいい。それはそれですばらしいエディター能力であり、理解している、ということに他ならないからである。
しかしながらそこにあったのは、実に平面的にリストされたコピペ、すなわちキーワードの解説なのだ。実験テーマのコンセプトがまったく理解できていない、ということはこうした序論から見て取れたが、そう推測した通り、結果はズダボロ(失敗した、ということではなく、何したのかわかっていない、ということ)、考察に至ってはたんなる妄想の口述筆記という状態だった。しかも、ほとんどの学生がそうだったのだ。問題は彼らがそれでとても正しいことをしている、と思っているらしいことである。上記のよくいるフマジメ学生とは違って、実にマジメに、真摯な態度でコピペしてきたのである。あまりこんなことを書いてもしょうがないのでそろそろ止めるが、これが意味しているのは今の学生は重大な危機にあるということ、すなわちさまざまな情報の断片を自分でソートし、一貫した全体性を持って物事を解釈する能力が徐々に欠落しつつあるのではないか、という恐れである。情報はそこいらじゅう、ネットにあるのに。解釈とは想像力である。膨大な情報の間に関係性を自分で見いだす、という能力がなくなりつつあるのだ。。。
なんて私は怒りにまかせてレポートに長大なコメントを殴り書き(レポートより長かったんじゃないか。アホである。)したわけだが、そんなわけで、あ、そうかもしれん、読解力低下、読んでいるけどとても素直、バカ正直なんだよね、なんて思っていた。まあ、だから彼らの世代は彼らなりの方法で今後想像力を養っていくしかないのだろう、なにしろコイズミさんは教育にかけるお金を減らしてブッシュと一緒に戦争したいのだし、まあ、大変なことであるなあ、ブツブツ、などと思っていた。

そうこうしているうちに、id:finalventさんのところで、「いや、こりゃ文化的差異である」という文章があり、これをうけて「ブログ時評」の団藤さんは*1

 私がドイツに取材に行ったとき、通訳の人が「この人たちは同じような中身を、言い方を変えて前後3回言わないと気が済まないんですよ」と嘆息した。しかし、国際的にビジネスしようとすれば、議論とはそんな面倒を嫌っていられないものだろう。「極東ブログ」も日本人には不向きとは認めつつ「どうしたらいい? 結論はついている。こうした読解力を高める以外に日本人が今後の世界を生きていく道なんかないよ、である」とする。
学力・読解力低下で知る危うい国家戦略

てな文章があったりしたので、OECDのサイトの方をちらちらと見てみることにした。文化的差異(すなわち日本人は意見をいうことに臆病(政治的、とfinalventさんは言っているが)なのでについてなのだが、こちらにエクセルファイルがある。(→リンク)これみると、日本人15歳の"Reading"能力はおそるべきことに屁理屈の大得意なフランス、ドイツ、合衆国いずれをも凌駕している。あんまり文化的差異ではないなあ、と思うのだが、どうだろうか。ついでなんでコピペしてしまおう。そもそも私はフィンランド人が文化的に特に屁理屈が得意であるとも思わないのだが*2

Mean score S.E. All countries
Mean Upper rank Lower rank
Finland 543 (1.6) 1 1
Korea 534 (3.1) 2 3
Canada 528 (1.7) 2 5
Australia 525 (2.1) 3 6
Liechtenstein 525 (3.6) 2 6
New Zealand 522 (2.5) 4 7
Ireland 515 (2.6) 6 10
Sweden 514 (2.4) 7 10
Netherlands 513 (2.9) 7 11
Hong Kong-China 510 (3.7) 7 12
Belgium 507 (2.6) 9 12
Norway 500 (2.8) 11 18
Switzerland 499 (3.3) 12 20
Japan 498 (3.9) 12 22
Macao-China 498 (2.2) 12 19
Poland 497 (2.9) 12 21
France 496 (2.7) 12 22
United States 495 (3.2) 12 23
Denmark 492 (2.8) 15 24
Iceland 492 (1.6) 17 24
Germany 491 (3.4) 15 24
Austria 491 (3.8) 14 25
Latvia 491 (3.7) 14 25
Czech Republic 489 (3.5) 17 25
Hungary 482 (2.5) 24 28
Spain 481 (2.6) 24 29
Luxembourg 479 (1.5) 25 29

というわけで、もう少しエクゼクティブ・サマリー(pdf)などを読んでみるつもり。

*1:ちなみに、この団藤さんのうけかたはけっこうずれているのではないかと思う。fialventさんはどちらかといえば、皮肉交じりに”こうした読解力を高める以外に日本人が今後の世界を生きていく道なんかないよ、である”ということだと思うのだが

*2:忘れていた。ドイツに来て以来、兄のように世話になっている友人はフィンランド系で、祖父がフィンランド共産党の書記長だったそうである。で、友人自身はそれを譲り受けたのか、すごく雄弁かつ屁理屈が得意。でも一般的ではないと思う。