同僚にフランスの農業高校を卒業した人間がいる。男ばかりの全寮制の高校だったという彼の高校時代の話を聞くと、ケストナーの「飛ぶ教室」を髣髴させるなんとも懐かしいような話ばかりだ。夜は毎晩のような修学旅行状態、例えば寝ている仲間のベットのマットレスを3人がかりで持ち上げて壁に挟んで本棚をつっかえにして朝まで出られないようにしておいた話を聞いたときには、世界中どこでも似たようなことをするんだなあ、とうれしくなってしまった。その高校はワインの醸造で有名な高校だそうで、フランス全土からワイン農園のドラ息子達が入学し、クリスマスや夏休みの後には彼らがフランス津々浦々の実家から持ち帰る極上ワインの「テイスティング」で泥酔するのだとうからとてもうらやましい。

その彼が先日ボジョレ・ヌーボーを研究所に持ってきて、今年のは凄いぞ、という。私は普段ボジョレ・ヌーボーに気をかけるような生活をしていないので、なにがすごいんだ、と聞き返すと、こんな糞ワインは珍しいから飲んでみろ、という。コルクを抜いて飲んでみると甘くも辛くもなく、微妙な異臭のするワインだった。口当たりもどこかシャバシャバしている。なんだこれ、というと、今年は猛暑だったんで歴史に残るダメワインの年なのだそうだ。ワイン屋に行くと、おまけで西暦とその横に丸とバツのついたリストをくれることがある。うまいワインの年とひどい出来の年が記されていて、買うときに参考にするものなのだが、今年は特筆すべきバツ印になるそうだ。