たまにだけど4月に雪がふる (Sometimes it snows in April)


長い戦いのあと トレイシーが死んだ
あいつの最後の涙を わたしが拭ったすぐあとで


たぶんあいつは まえよりうまくやってる
とり残されたまぬけより ずっとずっとうまく


あいつはたったひとりのともだちだった わたしはトレイシーのせいで泣いた
あんなやつは めったにみかけるもんじゃない
トレイシーのせいで泣いたのは もう一度会いたかったから
でもときどき ほんのときどき 生きるってことだけでないこともある


たまにだけど 4月に雪がふる
たまにだけど すごくやになる ほんとにいやになる
たまにだけど 人生におわりがなければいいのに そう思う
そして人は よいものにはすべて 終りがくるという


春はいつも いちばん好きな季節だった
恋人たちが 雨の中で手をつなぐ季節


春はいまでは トレイシーの涙だけを思い出させる
いつも愛に泣いて 痛みには決して泣かない


あいつはまえに 死ぬのなんか怖くない 力強く言った
死ぬのが怖くない わたしはそれに酔った
ちがう、写真をみつめながら 気がついた
わたしのトレイシーが泣くようには だれも泣けない


たまにだけど 4月に雪がふる
たまにだけど すごくやになる
たまにだけど ほんとにたまにだけど 人生におわりがなければいいのに そう思う
そして人は よいものにはすべて 終りがくるという


よく天国の夢をみる トレイシーがそこにいるって 知っている
だれか別の友達を あいつがみつけたって 知っている
たぶんあいつは四月の雪の すべての答えを みつけただろう
たぶんいつか わたしのトレイシーに また会うことがあるだろう


たまにだけど 4月に雪がふる
たまにだけど すごくやになる ほんとにいやになる
たまにだけど 人生におわりがなければいいのに そう思う
でも人は よいものにはすべて 終りがくるという


よいものにはすべて 終りがくると 人はいう
そして愛は それが過ぎ去らなければ 愛ではない

プリンスが亡くなった。狂ったように好きだった10代後半のころにわたしはすっかりもどってしまい、いろいろな用事をほっぽりだして上の歌詞を訳してしんみりしていた。18歳のころの4月だと思うが、この曲が入っているアルバムをヘビーローテーション(当時はレンタルレコードで借りてきて、カセットテープにダビングだった)していた時に、本当に4月の雪がふって、この曲をリピートしながらぼう然とうっとりと雪景色をながめていた。なにを考えていたのか、もはや思い出せないけど。

この曲はパープルレインで一気にスターになったプリンスが勢いにのって作った次作の映画の曲である。映画自体はみられたものではないという酷評をうけながら赤字興行となったが、サウンドトラックとして作られたそのアルバムは大ヒットした。特にそのうちの一曲、”Kiss”という小気味良い曲は誰でも聴いたことがある一曲だろう。映画はひどくナルシスティックな、なおかつどうしようもないメロドラマで、そこに出てくる主人公がトレイシー(プリンスが演ずるジゴロ)である。「たまにだけど4月に雪がふる」はこのアルバムの最後の曲。演歌のようなベタ加減ギリギリのところで空に上昇していくようなそんな名曲である。今聞いても音に古臭さが感じられないのがすごいなあ、と思う。

2016年の4月にプリンスは亡くなった。4月の雪の答えをたぶん、みつけたのだろう。