月旅行

保育園の先生と親の懇談会というのが年に一度ある。夜の7時から9時半まで、各クラスで集まり輪になって先生がクラスの現状などを説明してくれるわけだが、半分ぐらいはビデオである。「発育とは?」的なディスカッションもあったが、ビデオの方が面白かった。家では見ない姿をみることができる。

日本の保育園・幼稚園などと違うのは(違うといっても私が保育園・幼稚園に通っていた頃と今は違うのかもしれないが)、各クラスが下は3歳から上は6歳までの縦割り構成なことで、この4年分の年令幅の12、3人の子供たちが朝9時から夕方6時まで一緒に遊んでいる。しかもおもしろいことに、兄弟や双子は一緒のクラスになる。私の持っている幼稚園のイメージよりも「村の子供たち」的な雰囲気である。

ビデオを眺めると、年かさの子供たちがとても丁寧に、あるいは親が普通はしないような荒っぽさと対等さで小さな子供たちの面倒をみているのがとてもよい感じである。一週間に一度は研究所を囲む森の中にぞろぞろと並んで遊びに行くスケジュールになっている。そのシーンでは森の中に倒れている丸太の上をそれぞれ伝い歩きなどするわけだが、大きい子供の後に、小さい子供がちょっと怖い、と尻込みしていても大きい子たちが大丈夫だと声をかけながら手をつないで介添えをして、渡りきった小さい子供が誇らしげな顔になる。なにやら社会の基礎過程がそこにあるようで少々感動的でさえある。これまでにも無珍先生を迎えに行くと「森で川に落ちた」とかでぐっしょり濡れた服がゴミ袋に入れられて返ってくることがあるのだが、まあ、そんなわけなのだなあ、と納得した。

ビデオの圧巻は、大きな子供にビデオを渡して、勝手に一日とらせた、というクリップである。先生が撮影しているのとはまったくちがって、子供たちがものすごく、あきれるほど生き生きしていて下品で、野蛮なほどである。「先生に撮られている」って子供たちはわかっているんだなあ。まあ、そんなわけで、同じクラスのカナダ人の親が「さっきの模範的なビデオはいいとこ取りじゃないの?カットしていないやつもみせてよ」とかつっこんでみなで大笑い。

ゴッコ遊びをしているシーンもいくつかあったのだが、これは見ただけではなにをしているのかわからない。一人が頭がおかしくなったような挙動をしているうちにあっというまに他の子供達が真似し始めて混沌なる状況になっているところでビデオが止められ、「なにをしているのかわかりますか?」と先生が聞くので、親一同、うーん、と首をかしげていろいろな意見をいうのだが、どれも間違っていた。「月にみんなできてやってきた」というゴッコ遊びで、たしかに巻き戻してもう一度眺めると、無重力状態やら、宇宙服を着込んでいるところやら、空気がないやら、実に複雑な演技をしている。これまたオドロキであった。月にみんなでいったところ、なんていったいぜんたいどうやって思いつくのだろうか。