たこ坊主

ロンドンのたこ坊主はある日突然連射メールを送ってくる。忙しいのにはじまったー、またこんなむちゃくちゃな内容を、と思いながらも覚悟を決めあたふたと返事を書いているうちにさらにメールが続々とチンチン音を鳴らしながら到着し収集がつかなくなり、冗談交じり、世間話交じりの会話状態、外付けにほうってあったデータを引きずりだしたり簡単な計算をしながら数時間が過ぎる。これだったらチャットやスカイプにすりゃいい、と思うのだが要するに会話しながら論文を書くタイプの人なのである。記録上都合がよいとのことで、そうなる。しばしの嵐が過ぎ去った後に、こちらがあらためて読み直して必要な部分を検討しているうちにまたひょこっと、ところでこれどうよ、とメールが来て、もはや諦めの境地。本日はこれで夕方6時から朝1時まで。
同じような青天の霹靂メール連射にみまわれる人間を何人か知っていて、「おれたちたこ坊主の遠隔奴隷やな」と自嘲混じりに言ったりしているわけなのだが、別に権力上下関係があるわけでもないのである。人を乗せるのがうまい、というかなんというか。ツッコミどころ満載のメール内容なので、そりゃ違うでしょ、とおもわず返事をしてしまい、そのままずるずると引きずり込まれるのである。こうして議論した内容がCellのレビューに盛り込まれたりするのだから、実に油断もすきもない。
リアルで最後に会ったのはこの前の年末の東京だった。今どこいる、と短いメールがきたので、東京、と返事をしたら、俺もだ、じゃあ新宿で待ち合わせよう、とのことで、これもまた晴天の霹靂だった。夜更けにたこ坊主と新宿のDUBで飲んでいて話している内容もロンドンのパブや学会の出先の田舎バーと一緒なので実に妙な気分だった。かくして遠隔奴隷の知(血)を結集した結果かなんなのか、たこ坊主はいまや某有名研究所の部門長になっている。