Basel

郵送で請求した新しいパスポートを朝一番、ミュンヘンで受け取って、そのままオーストリア、スイスを抜けてバーゼルへ。4時間半でつくはずだったのだが、ドイツ内にまだいる間にでかい事故で渋滞、3時間近く微動だにしない中待つことになって8時間近くかかった。よほどでかい事故だったのか、全面交通止め、動き始めたと思ったら妙なところから数珠繋ぎの一列縦隊で高速を出て、牧歌的というか牛がモーモーないているまさに牧歌ほかならぬ緑の牧草地の中をたらたら走って迂回することになった。小川のせせらぎだの小鳥のなきごえだのが聞こえてくるし、小さな池などもあって、渋滞でうんざりな気分だったのにたまにはこんなハプニングもいいかなあ、などと思ったりした。

スイスへの入国はいつもながらちょっと厳しい。私はたいてい停車させられる。3時間ほど前にもらったパスポートを見せたらそれをぱらぱらめくりながら

「どちらへ?」と入国審査官が聞く。
バーゼルへいくんです」
「なにしにいくんですか?」
「講義に」

とたんに入国審査官の顔が、うさんくせーな、おれは信じないぞ、という顔になり、あっちに車を止めろ、と誘導され、しばし私はまつことになった。うさんくさいのは風体と講義という組み合わせが信じがたいということなのだろうと思うのだが、パスポートの記載内容を照合して帰ってきた入国審査官は、まー、そうゆうこともあるかもね、という顔で、無事釈放された。スイスがどうもきらいなのは、このややこしいつかまりがちな入国審査のせいである。スーツ着ていたらとめられないのかな。今度ためしてみよう。そういえば、一年前だかにとあるスキー場の山の頂上で吹きすさぶ雪の中、スノボを履いている私に突然「パスポートを見せろ」といってきたのもスイスの入国審査官だった。そこがスイス・フランスの国境だというのは知っていたのだが、同じスキー場内である。リフトに使うチップのカードも共通だ。周りの友達は仰天していたが、私も仰天した。たまたま帰る日だったのでパスポートをもっていたから、はいどーぞ、で済んだのではあるが、なかったらフランス側からドイツにもどらなくてはならず、ややこしいことになる。

まだ雪の残るアルプスを目の端にながめながら、チューリッヒを経由してたどりついたバーゼルはなかなかよい町である。フランス・ドイツ・スイスの国境の町であり、国境の街はどこもそうだが、どこかすさんでいて落ち着かない。私は結構このトランジットな感じが好きである。つい数年前に共著の論文を書いたチュニジア人の女性に案内してもらってライン川沿いをぶらぶら。流れはかなり速い。川沿いに家がぎゅうぎゅうにひしめいて建っている。家が河に落ちそうに見えてしまう。なんとなくアジア的な風景だった。泊まったホテルのバスルームが、床照明、というのかなんというのか、半透明の床の下に照明が上向きに埋まっていて、おもしろいのだが下から照らされて裸になるのは妙な気分だった。技術的な利点としては、照明器具の発熱で床がなんとなく暖かくなるという副次的な床暖房効果がある。が、家に同じような床照明がほしいかというとそうでもない。なにしろ埃だの髪の毛だの、ごみが目立ってしまう。掃除に追い立てられることになる。