モーター

小学校低学年の頃、マブチのモーターに私はとても魅了されていた。型番によってトルクが違うことなど近所の仲間と情報交換して、電動消しゴムに使うにはどれが一番よいのか、などと頭を悩ませたり、不燃物のゴミ集積場をあさってモーターを集めたりしたものだ。今だったらあちらこちらに転がっている廃棄PCを分解すれば宝の山である。
というわけでモーターの話。「生物のランダムウォーク」著者、ハワード・ベルグセミナーがあったので聴講。大西洋を渡って昼についたばかり、ということでふらふらしながらのほぼレビュー的な講演内容。大腸菌鞭毛のロータリーモーターについて(右上イラスト *1 )。この話は学部の時からすげえなあ、と思っている。なにしろ構造的にまさにモーターなのだ。鞭毛モーターを機械のモーターに例えて「シャフト」「ロータリーディスク」などと表現した最初の頃の論文は生物系ジャーナルの査読者に「表現がそぐわない」と苦情を言われたそうである。今や原子レベルの構造を初めさまざまなことがわかっているが、未だにわからない点だらけである。その謎の一つとして、回転の反転のメカニズムについて見解を披露していた。詳しい実験の話では回転数 vs トルクに関して、温度をいろいろに変えたときの実験について。全般に後発のATP合成酵素の回転メカニズムの研究に追い越されてしまった感じがするが、長年にわたって鞭毛運動を研究してきたベルグさんの話は実におもしろかった。
モーターの運動機構ではないが、学部の時に聞いて印象に残っていた「鞭毛の長さがいかに制御されているのかいまだわかっていません」という話が今やかなりよくわかっているのだなあ、と感心した。鞭毛の内側はトンネル状に中空になっている。その中空経路を通って鞭毛を構成するタンパク質が鞭毛先端部分まで運ばれ、先端にどんどん負荷される。そうである。だとすれば以下はたんなる妄想だが、ある程度長くなれば、輸送にかかる時間がどんどん長くなるので、自然に解離するタンパク質の解離速度とのバランスで鞭毛の長さがきまることになる。


生物学におけるランダムウォーク (りぶらりあ選書)

生物学におけるランダムウォーク (りぶらりあ選書)

*1:、スクリップスのDavid Goodsellによるイラスト