ポスドク

理系白書’05:第3部 流動化の時代/1 漂う“ポスドク”1万人
というわけでポスドク氷河期が到来しているわけだが、平成十六年度科学技術の振興に関する年次報告

三 第一期・第二期科学技術基本計画の達成状況
(人材養成及び人材流動化)
 人材に関しては、第一期基本計画においてポスドクター等一万人支援計画を定め、また第一期・第二期基本計画を通じて、研究人材の流動性、若手研究者の自立性の向上が図られた。

なる簡単な結論で、実にあっけらかんとしている。ここで高らかに謳われるように確かに流動性は上がったけど出口がボトルネックで洪水決壊済み、というしょうもない状況なのであって、ポスドク当事者の瀬戸際状況はしばらく前に研究者の間で流行ったフラッシュ”博士の人生”などを見てもわかるだろう。解釈すればこの状況は役所の常套手段の結果である。役所原理では問題が存在しなければ予算がつかない。そこで
(1)人為的に問題を発生させる。
(2)その問題を解決するための処方が行われる。
というツーステップ。10年前に行われた大学院重点化の時も、最初に院生の数がやっためたらに増えて研究室は人間で溢れかえり、それが問題だということで建物の予算がつき、さらに院生が学位をとるころには行き先がない、ということでポスドク向けの奨学金が増大した。まずは人間を増やして問題を作るのである。この最前線である我々世代はたまったものではない。というわけで、ポスドク過剰はステップ1の段階なのである。いわば今氷河期になっている我々の世代は捨て駒なわけだと私はつくづく思ってしまう。そんなわけで、ステップ2が進行しつつあり、例えば(太字は引用者による)
博士研究員:就職支援に5億円

大学や研究所の常勤職ポストが少なく、30〜40代になっても定職に就けない博士号取得者が目立っているため。両省は来年度、ポスドクと民間企業など新たな進路とを橋渡しする新規事業に計約5億6000万円を支出し、「博士の就職氷河期」の解消を目指す。
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ポスドクは博士号を取得した後に任期付きで働く研究員。政府は、研究開発能力の強化のため、ポスドクに一定の年収を保証する「ポスドク等1万人支援計画」を科学技術基本計画に盛り込み、量産化を進めた。昨年度のポスドクは約1万2500人と推計される。

などといった処方が行われるらしいけれど、要するにこれまでもあったベンチャー支援ってことで普通に就職したい人間はどうするのかね、と私は思ってしまう。上でいう流動性が高まったのは、ポスドクという狭い業界に限った話であって、社会全体の流動性が上がらなければ問題は解決しない。そんなわけで官僚的なマクロな意見としては”「過剰」なポスドクについて On 'excess' postdocs>”といった某有名生物学者による、不安定なポジションオッケーオッケー、という内容のエッセイもあったりするのだが、当事者意識ゼロなエッセイだと私は思う。おおまかにはそうかもしれないけれど、問題を抱えている当事者のボスであるという意識が筆者には欠落している。ゼッタイ安全地帯(上の世代)からこの手のこと言われると、がけっぷちの人間(我々の世代)は怒るわけなのである。”オマエにいわれたくない”、ということで。もうひとつの点は”研究さえしていれば幸せなはず”という、日本にだけある妙な前提がモロ見えなこと。出家したんじゃないんだからマトモな生活もする必要があるのである。

生物関連に限っていえば少し古いのだが
http://www.jsap.or.jp/activities/gender/2003r-chapter_report.html

 伊藤氏からは,基礎生物学分野のポスドクの現状報告をいただいた.この分野では受け皿となる企業の規模が小さく,ポスドクレベルの研究者の次のキャリアの選択肢となっていないこと,そのため,40歳近くまで複数のポスドク職を渡り歩くことが珍しくないとのこと.さらに,キャリアアップのためにはどうしたらよいかという学生・ポスドクへ向けた具体的なメッセージや,雇われ職人的な立場で安定して研究に携われるキャリアパスを用意してはどうかというユニークな提言などをされ,大変に印象的であった.

などといった現状がある。昔から言われていることだが、生物学はツブシがきかない。なのだが、政府が重視しているのはライフサイエンス関連分野であるからこうしたポスドク量産しているのである。毎日の記事でいう企業との橋渡し、具体的な策があるのかどうか実に気になるところである。

ところで
ポスドクフォーラム http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~pdforum/
なんてのもあるんですね。でもどうせなら、労働組合作ったらどうか、と思う。1万二千人いるんだから、かなりの力になる。