朝顔自動洗浄システム

残尿。忙しい気分になればなるほど、くだらんことが気になりはじめる。うちの研究所の男子用トイレの話。尾篭であるが、くだらんことが気になる状態なのでしかたがない。というわけで、トイレ、であるが、小用を足した後に自動的に水が流れる仕組みになっている。赤外線で人の存在を探知する機械がついているのだ。おそらく微弱な赤外線をつねに発しており、人物が朝顔の前にたたずむとやおらその強度が高まるようになっている。その人物に反射した赤外線は探知機が再び感応し、確かにそこにその人物が存在している、と確認し続ける。用を足し終えた人物がその場をさると、反射赤外線の強度が一気に低下するので、この低下を探知するや否や、朝顔の洗浄機のバルブが解放され尿をすみやかに洗い流すという仕組みであろう、と私は想像している。
日本でもそうだったのか覚えていないのだが、冬になると自動洗浄システムが作動せず前使用者の残尿を朝顔の底に発見することが増える。先ほどトイレに赴いた折には、二つある朝顔のいずれもが残尿放置状態となっていた。なぜなのかなあ、と思っていたのだが、推測するに冬になると暗い色の服を着ている人間が増えるからではないか。例えば黒い服はとてもよく赤外線を吸収する。したがって反射赤外線の強度が低減してしまい、そこにあたかも人がたたずんでいないかのごとき状態となる。黒のフリースなどはもってのほかだろう。吸収に散乱が加勢し、ステルス状態である。だから、黒のフリースを着ているやつは小用を足した後に、あえて探知機に手をかざして洗浄がただしく行われるように取り計らって欲しい、などとはいわない。私に限って言えば、洗浄が欠落した場合、私はやおらしばし手をかざして洗浄を発動させている。非接触手かざしのあらたかな効果にうれしくて、人の分まで手かざしすることさえある。メカニズムが分かっていない人間が目撃したら、朝顔に手をかざす変人だろう。
以上のステルスメカニズムを推測して以来、この私が今着ている服の配色は果たして正しく探知されるのだろうか、と考えるともなく考えつつ、朝顔の前に立つようになってしまった。科学の研究と違い、結果が実にすばやく、はっきりでる。それは楽しみでさえある。