風景の多層化

おとといの夕方、新宿のアルタ前で、自民党参院選演説会にたまたま出くわした。女子プロレスラー出身の候補者が、バンの屋根の上で、”うおー”だの”いくぞー”だの意味不明ながら気合だけは入っているという趣旨のパフォーマンスを繰り広げた。そのあと、あらい某なるテレビタレントらしき小男が登場し、幇間のように後ほどアベが、などと愛嬌を振りまきつつ、みなさん年金のこと心配でしょう、でも自民党なら大丈夫、と絶叫。持参したらしき自分の年金手帳も振りかざしていたが、なにをいいたいのかよく分からなかった。3番手は官僚出身の名前を忘れた候補者がいかにも役人な雰囲気の演説を行った。内容は最も分かりやすかったが、政治家というよりも、役所で「善処いたします」と言われているような気分になった。

4番目に現れた候補者ではない男は、ごらんなさい、自民党はこんなに幅広い種類の人間を候補者にしているのです(=プロレスラーからキャリア官僚までということらしい)、さて幹事長の登場です、と絶叫。真打アベが登場したわけだが、小泉に仕事を継続させてくれ、信じてくれ、という内容だった。

信じてくれ、と言われている聴衆も私は観察していたのだが、ほぼ30パーセントは自民党関係者、ビラ配りのバイト、警備の警察関係者だった。私は至近距離の植え込みの前の鉄柵によりかかって演説を聴いていた。となりに座り込んだ若い男女3人に対して宗教団体らしき若い女の子が「神はいるんです」とオルグに熱弁を振るうのを、きくともなく聞きながら、当の若者たちはケータイで電話したり、信心深いらしいその女の子に、でもオレだって神様ぐらい信じてるよー、と言ってみたりしていた。ぴったりとその男の子にくっついて座った女の子は馬鹿でかい手鏡を覗き込んでしきりに化粧を直していた。

バンの上で狭苦しく林立した自民党候補者の背後では、アルタのスクリーンがめまぐるしくさまざまな宣伝を繰り返していた。私はアルタのスクリーンにうつる韓国の俳優の涙を眺め、ファルージャ爆撃の映像を一瞬目にし、次の瞬間には隣の宗教団体の女の子の言葉を耳にしながら同時に目は体を揺らしながら信じてくれ、と絶叫する参議院議員候補者の姿を眺めていたのだった。