セクト化するネット

はてなを名指しで非難するサンケイのコモリ氏*1の次のような言葉を眺めた。

この文章は二重三重に偏向フィルターを経ており、ニクシュ氏がこの日本語のとおりのことを客観的な記述(他の人の文章の引用ではなく)として書いているとは、きわめて疑問です。とくに日本語訳のところに出てくるhatenaというのは悪名高き左翼ネットオタクだという説があります。

『古森義久記者、はてなに逆恨みする』@vanacoralの日記より、孫引用。

レッテル貼りの好きなワシントン特派員コモリ氏ならいかにもいいそうな話だなあ、と流してから*2別のブログをながめていたらこんな記述が。

11日の記事で、「はてなが有害情報を放置してアクセスを稼いでいる」と書いたら、予想どおりネットイナゴが殺到して150もブックマークがつき、はてなの「人気エントリー」のトップになった。世界情勢にも経済問題にも関心がないが、自分の使うおもちゃを批判されると泣きわめく、匿名の精神的幼児の集まりだ(*)。はてな梅田望夫氏のいう「集団の叡智」なるものの反例になっているのも、皮肉なものである。

gooブログの品質管理@池田信夫 blog

いずれにしてもこの一日の間のエントリーなので妙に同期。"悪名高き左翼ネットオタク"で、"匿名の精神的幼児の集まり"なはてな。裏で何かあるのではないか、はてな壊滅作戦開始か、とか陰謀めいた話をしたいのではなくて、こうしたはてなをひとくくりにまとめて非難するトレンドはこれから結構強まるのではないか。はてなを中心にコミュニケーションが交わされて、なんとなく合意に達する内容は日本語のネット全体を眺めればマイノリティだからである。少し前のことだが、FacebookMySpaceの階層差についての記事をガーディアンでみかけて、なるほどな、と思ったことも関連している。Facebook, MySpaceというのはそれぞれ英語ベースのSNSなのだが、登録して使用している人間の社会・・経済的な位置づけが見事に分かれている、という話である*3

In a paper this week, Ms Boyd said typical Facebook users "tend to come from families who emphasise education and going to college. They are primarily white, but not exclusively". MySpace, meanwhile, "is still home for Latino and Hispanic teens, immigrant teens" as well as "other kids who didn't play into the dominant high school popularity paradigm".
Facebook v MySpace - a class divide

研究所関係の知り合いといえば、院生・ポスドク・職業科学者なのだが、SNSをやっているとしたら、ほとんどがFacebook(熱中している人もしばしば)。知り合いでMySpaceをやっているといったら、音楽とかクラブ関係者で、なんか敷居があるんだな、と前からなんとなく思っていたので、このあたりの確証を上の記事で得た感じ。日本でもブログサービスを提供する会社ごとによって学歴や価値観によってすみわけがおきているのだろうな、と思う。会社ごとに使用者の傾向を社会学的に調査したら面白いかもしれない。ひるがえって、最初の二つの記事に戻れば、”はてな”がひとつの塊、あるいはある傾向の思想をもつ集団として敵視されるのはこうした背景が前面に出てきた、ということになる。
歴史の中に宗教にしろ思想運動にしろセクト化というのはよくみられる現象だ。記述されるそういったセクト化の過程は往々にして、若い世代にリーダーが現れて新たなグループを教唆するというような話なのである。しかし、外部から塊としてみえてしまってその結果セクト扱いになるというようなことがより真実の過程なのかもしれないな、と考えたりする。

*1:キーワード『古森義久』を参照せよ

*2:なお「日本語訳のところに出てくるhatenaというのは」とかいてあが、これは正確には「日本語訳が掲載されたhatenaというのは」、という意味である。ニクシュ氏の翻訳にはてなが出てくるわけではない。

*3:追記。Viewing American class divisions through Facebook and MySpace / danah boyd/ June 24, 2007が、この記事に紹介されている論文なのだが、ボイド本人の方の文章には、これは学術的な論文ではなく、目下の印象である、と断られており、内容をざっとみたところでは学者が書いたブログという体裁である。とはいえ、専門家なので内容は興味深い。

From Left to Right

これすごくいいから聴け、というようなことを友人にいわれると、USBのメモリースティックにコピーしてもらって車を運転しながら聴く事になるのだが、そのうちのアルバムの一枚がひさしぶりのビル・エバンスだった。甘ったるいばかりでもなく、なかなかよい。エレピのトラックなぞなぞ。たしかEloquenceというアルバムがエレピばっかりのアルバム。ファンには評判が悪いらしいのだが、今の時代になってみると逆に古めかしくていいんじゃないかなあ、と思ったりする。

FROM LEFT TO RIGHT

FROM LEFT TO RIGHT

From left to rightといえば、水村美苗の名作を思い出す。

私小説 from left to right (新潮文庫)

私小説 from left to right (新潮文庫)

以前私が書いたレビューはこちら。