レン・マスターマンの「メディア・リテラシー:18の基本原則」

1 メディア・リテラシーは重要で意義のある取り組みである。その中心的課題は多くの人が力をつけ(empowerment)、社会の民主主義的構造を強化することである。
2 メディア・リテラシーの基本概念は、「構成され、コード化された表現」(representation)ということである。メディアは媒介する。メディアは現実を反映しているのではなく、再構成し、提示している。メディアはシンボルや記号のシステムである。この原則を理解せずにメディア・リテラシーの取り組みを始めることはできない。この理解からすべてが始まる。
3 メディア・リテラシーは生涯を通した学習過程である。ゆえに、学ぶ者が強い動機を獲得することがその主要な目的である。
4 メディア・リテラシーは単にクリティカルな知力を養うだけでなく、クリティカルな主体性を養うことを目的とする。
5 メディア・リテラシーの方法は探究的である。特定の文化的価値を押し付けない。
6 メディア・リテラシーは今日的なトピックスを扱う。学ぶ者の生活状況に光を当てる。そうしながら「ここ」「今」を、歴史およびイデオロギーのより広範な問題の文脈でとらえる。
7 メディア・リテラシーの基本的概念(キーコンセプト)は分析のためのツゥールであって、別の内容を示すものではない。
8 メディア・リテラシーの内容は目的のための手段である。その目的は別の内容を提示することではなく、発展可能な分析手段の開発である。
9 メディア・リテラシーの効果は次の2つの基準で評価できる。
  1)学ぶ者が新しい事態に対して、クリティカルな思考をどの程度適用できるか
  2)学ぶ者が示す参与と動機の深さ
10 理想的には、メディア・リテラシーの評価は学ぶ者の形成的、総括的な自己評価である。
11 メディア・リテラシーは内省と対話の対象を提供することによって、教える者と教えられる者の関係を変える試みである。
12 メディア・リテラシーはその探究を討論によるのではなく、対話によって遂行する。
13 メディア・リテラシーの取り組みは、基本的に能動的で参加型である。参加することで、より開かれた民主主義的な教育の開発を促す。学ぶ者は自分の学習に責任を持ち、制御し、シラバスの作成に参加し、自らの学習に長期的視野を持つようになる。端的にいえば、メディア・リテラシーは新しいカリキュラムの導入であるとともに、新しい学び方の導入でもある。
14 メディア・リテラシーは互いに学びあうことを基本とする。グループを中心とする。個人は競争によって学ぶのではなく、グループ全体の洞察力とリソースによ って学ぶことができる。
15メディア・リテラシーは実践的批判と批判的実践からなる。文化的再生産(repr oduction)よりは、文化的批判を重視する。
16 メディア・リテラシーは包括的な過程である。理想的には学ぶ者、両親、メディアの専門家、教える者たちの新たな関係を築くものである。
17 メディア・リテラシーは絶えざる変化に深く関係している。常に変わりつつある 現実とともに進化しなければならない。
18 メディア・リテラシーを支えるのは、弁別的認識論(distinctive epistemology)である。既存の知識は単に教える者により伝えられたり、学ぶ者により「発見」されたりするのではない。それは始まりであり、目的ではない。メディア・リテラシーでは既存の知識はクリティカルな探究と対話の対象であり、この探究と対話から学ぶ者や教える者によって新しい知識が能動的に創り出されるのである。
(訳責 宮崎寿子・鈴木みどり
(鈴木氏注釈:「原文ではマスターマンは「メディア教育(media education)」という言葉を用いているが、これはクリティカルな視点を含む自発的かつ自立的学習を意味しており、「メディア教育」よりは本書でいう「メディア・リテラシー」により近い意味を持つことから、本訳ではこの語を「メディア・リテラシー」と訳出している。」
       出典「メディア・リテラシーを学ぶ人のために」(鈴木みどり著)