カルカヴェロス・ポルトガル

プロフェサーミウラのご案内、と誇大広告もかくや、と大仰に書かれたタクシーに乗って海辺のホテルに放り出されたのが22時半だった。チーズとハムのサンドイッチしかない、と同情交じりの目でいうホテルのバーテンにサンドイッチは食いたくない、とホテルを後にし、もう飯はくえないかもしれんなあ、と思いつつ街に向かってふらふらと出て、目についた蛍光灯のまぶしい大衆食堂風なセルベッセリアに入った。
ペンギンを人間にしたような、仏頂面で薮睨みの小太り親父に、まだなんか食べさせてもらえるでしょうか、と慇懃に伺いを立てたのだがダメだった。火はもう落とした、酒しかないぞ、というので空きっ腹はますます空いているような情けない気分。どっか食べるところないでしょうか、とさらに聴いてみた。この時間じゃだめだねえ、(あたりまえだろ)という顔で答える。すると、小耳で聴いていたのか、カウンターでワインを飲んでいた客が、いや、食うだけならそこの角曲がってまっすぐ行けばいい、音楽が聞こえるからすぐにわかる、という。
クラブかなにかだろうか、と半分しか意味の取れなかった言葉を反芻しながら夜道をぶらぶらあるいていたら、確かに音楽が聞こえてくる。夜道に音楽、夏の風、というのがどことなく日本風だなあ、と思いながら音源にアプローチすると、煌煌たる光のもとに公園にステージが設営されていて、いいとししたオヤジたちがそろいの革ジャンの出で立ちで古くもなければ新しくもない80年代ロックなぞをがなっている。周りにはテーブル、人だかり。おお、これなら確かになにか食えそうだ、と思いつつ、人だのテーブルだのごちゃごちゃと走り回る餓鬼どもなぞを縫いながらステージの横に並ぶ小屋を目指した。
思いのほかの若い歳の男の子が、会計の窓口に座っている。横にあるメニューを眺めて、焼きイワシ6匹にサラダ、赤ワイン、などと注文すると、領収書に手書きで注文の品を丁寧に書き込んで、お金と引き換える。どうしたらいいんだ、ときくと、あっちにどうぞ、と窓口から身を乗り出して指し示してくれる。それにしたがい小屋の横にいってみると、中学生ぐらいの子供たちが走り回って領収書と引き換えに注文の品を客に手渡している。よくよく見ればそろいの半ズボンに首にかけたスカーフは日本でも見覚えがある。ボーイスカウトガールスカウトだ。私の注文を受けた中学生ぐらいのポルトガル美少女が、座って待っていろ、というので、近くのテーブルに座り、イワシを待つ間にあたりを見回してみると、でかい横断幕によれば地元のボーイ&ガールスカウト50周年記念のお祭りらしい。夜半も近いというのに不良なスカウト少年少女である、さすがポルトガル、わはは、などと思いながらも、慣れない手つきでイワシとワインを運んでくる笑顔もいかにも楽しくてしかたがない、という美少女に相好を崩しつつ、ムイトオブリガート、日本語でアリガート、などと言ってみる私は確かにダメオヤジであった。そうこうしながら、生焼けのイワシ塩焼を頭からかじりつつ赤ワインを啜っていてはたと気がついてみたら、ベタなことにステージのオヤジたちががなっているのは”サマー・オブ・69”だった。

目下このあたりに滞在中。去年のポルトガルの記録 → ポルトガルの子供たち http://d.hatena.ne.jp/kmiura/20060612#p1