台所

猿゛虎゛さんのノートを眺めていて(食育から食史へ)一八世紀末イギリスの都市の下層民の家には台所がなかったというようなメモがあって、台所の歴史っておもしろそうだな、と思った。ウィキペディアでみたら”kitchen”の項はかなり充実していておもしろい。ただ、一般の家庭がどうだったか、とか国による違いが書かれていないのが残念。そういえば台所の文化史、という本があったのを思い出した。さかのぼること10年以上前の院生の頃読みたいな、と思ったのだけど貧乏で購入を我慢したのだった。
台所の文化史 (りぶらりあ選書)
ドイツ語で料理することを一般的に"kochen"というのだが (音的にはコッヘン、英語のcookとなんとなく同系列である。日本で使われる登山用語のコッヘルもこのあたりから来ているのだろう)、湯を沸かすことも同じく”kochen”という。したがってドイツ人が英語で"cook coffee"という言い回しを使うことがあり*1ドイツに来た当初はコーヒーは料理かあ、と我彼のコンセプトの差を感じたりしたものだが、実際のところコーヒーを沸かす、ないしは入れるという意味と料理するという意味にドイツ人的にはどうやらあまり差はない。なぜならば、普段おこなう”料理”といえば湯を沸かしあるいは茹でることが主体の料理がほとんどだからである。”焼く”という行為はすでにかなり頑張った料理、ということになる。「シンデレラ」に出てくるようなかまどを想起すれば実際に庶民的な料理の主体はすなわち湯をわかすこと、だったのだろうし台所などという大仰な装置は金持ちの貴族以外はなかったんだろうな、なんて思ったりする。で、いまだにドイツ人の料理の主体は「沸かすこと」がほとんどでありkochenはkochenでありつづけるのだ。

*1:普通はmake coffee brew coffee, serve coffeeだろう