関係欲動モデル
建築構造に従来の力学とは全くことなる発想でアプローチしたテンセグリティという構造体がある。柱が屋根をささえる、という重力を利用した構造ではなく、構造体の要素同士の間に働く張力のバランスによって全体の構造が構成され、重力とは無関係に自立する。
Kenneth Snelsonが考案し,R. Buckminstar Fullerが命名したテンセグリティ(tensegrity)構造.張力材(ここではゴム)と圧縮材(木のロッド)を組み合わせた構造体.張力材は連続しているが,圧縮材は不連続な構成となっているのが特徴.そのため,圧縮材が空中に浮いているような不思議な感じを与える.
幾何学おもちゃの世界
上の定義は「幾何学おもちゃ」のページによるのだが、テンセグリティのアイデアは具体的な建築として実現している。スポーツスタジアムの屋根に使われたり、登山で使用するテントに革命的な変化をもたらした自立タイプのジオデシック・ドーム構造などがそうである。
テンセグリティは振動する共鳴型の構造である。(実際、びくともしないのではなく、常にびくびくしている生きたシステムを構成している。)
テンセグリティ・プリセッション
建築は静的構造とみなしがちであるが、風や人の移動による応力に呼応して常に微小な変形が起きる。テンセグリティの特質は、こうした変形の影響が全ての圧縮材の位置関係と、張力の分布の大きな変化として結果することである。外部からの力に対して全体がその力を満遍なく吸収するので柔軟で粘り強い構造になる。なおかつ力を加えたときの個々の要素の運動は、応力の方向からは直感的に推定することは難しい。テンセグリティの構造体を外側から引っ張ったときのシミュレーションが下の動画である*1。
これを純粋な関係・連帯欲望の作動による人間関係のモデルとして考えてみる。圧縮材が個々の人間に相当し、関係性は張力材、ということになる。関係性だけが連続し、人間が互いに”空中に浮いているような不思議な感じを与える”。ネットの匿名な人間関係や”高校生のリアル”を考えると、張力材の材質は均一であると近似できる。人間(圧縮材)の間の関係性は恣意的に変化する。どこに力が加わっても全体の構造としてはまとまりがあるが、関係性(張力)はくまなく変化し要素の配向を決定する。上の動画は上から引っ張った時の様子である。圧縮材は大まかにいえば全体が一つの方向に並ぶ。一点に対する力が構成するすべての要素の運動を雪崩のごとく方向付けてしまう。いわゆる炎上やイナゴ現象、および突発的かつ恣意的に発生し入れ替わるいじめの対象といった現象に相当する。圧縮材同士の変位と人間関係の変位の違いは、上の動画は外から力が加わったときの様子であるのに対し、人間関係の場合は要素のいずれか自身による内部的な力発生であることだ。テンセグリティのモデルは細胞の構造と変形のモデルにも使われており*2、細胞骨格自体が力を発生する。人間関係のモデルにより近い。
*2:細胞のモデルとして妥当かどうかという批判はあまたあるのだがここでは書かない。