国民皆兵

スイス人の主任研究員とお茶飲み話をしているときに、スイスの国民皆兵制度の話になった。昔学校で習ったけど実際にはどうなわけ、というようなことで聞いたのである(なおかつスイスのバーで隣り合わせた少年が「春から徴兵だよお、やんなっちゃう」といっていたからなのだが)。あまりに馬鹿げた思い出なのでゲンナリするけど、といいながらもいろいろと説明してくれた。成年に達した男は一番最初に19週間の訓練をした後に毎年2週間、軍に赴いて訓練する義務があるのだそうである。外国に住んでいる場合は訓練を免除されるが、年収の2.7パーセントをかわりに納めなくてはいけないのだとか。支給される自動小銃は自宅保管で、訓練の際には自宅から持参するので、銃は通常自宅にあることになる。学生時代狭い部屋に住んでいた主任研究員は置く場所がないのでしかたなくキッチンに立てかけていたそうで、「遊びに来たアメリカ人の友達が度肝抜かれていたよ、あっはっは」といっていたが、キッチンに自動小銃かよ、と思って私もちょっと目をまるくした。どんな自動小銃なのかなとあとで調べたら、スイスの制式自動小銃はこんなかんじ。(右上写真)とても高性能で、素人でもちょっと練習すれば、300メートルの距離で直径20センチほどの的に当てることができるようになるそうである。ちなみに私は中学生のときに米国で射撃の訓練を受けたことがあるが、50メートル先の20センチの的に当てるのに大変な苦労をした。肺から2/3ほど空気を吐き出した後に卵を握りつぶすように引き金を引け、と軍隊上がりの教官に何度も言われたが、それだけではあの旧式ライフルではダメなのである。
スイスに戻れば、台所にかくなる物騒なものがたてかけてあったら、国民皆兵ではない私のごとき人間はなにはともあれたまげる。年頃の男がいればスイスの各家庭にはかくなる高性能な自動小銃が転がってるわけで(いや、几帳面な人であればきっちりしまうだろうけれど)、訓練前ともなれば武器の整備状況検査があるからあわてて分解して掃除したりグリースをひいたりしているということになる。米国の治安が悪いのは銃が巷に跋扈しているからだ、というような話があるが、家庭にある銃の台数だけでは治安のうんぬんを議論することはできん、なんて思ったりもした。ただしスイスの場合、銃弾が厳重に金属製の缶に封入されているとのことで、Kマートでいくらでも銃弾を買えるというような状況ではない。ダメな比較ではある。