白血球のことを来週講演するからかもしれないが、白血病のことを考えていた。悲惨な病である。子供のときに近所に住んでいた姉妹の姉の方が、小学校を終えることなくこの病気で亡くなった。私にまで姉のような威厳で接していた立派な人だった。中学の時の愉快な友人もスイスへの留学中に白血病を発症して帰国後になくなった。白血病日本において子供が罹患するガンの中でもダントツの位置をしめており、そんなわけで不謹慎なのではあるが、白血病にまつわるイメージについて考えていたのである。昔日より、少女漫画で幸薄い美少女が罹患するのは白血病であるケースがとてもおおい。歯茎から血が出る、髪の毛が抜ける、などなどの症状とともに進行する確実な死への物語に私も恐れおののいて読んだものだ。近年に至っては「世界の中心で・・・」にしてもその中心にある不幸は白血病だった。

しかし、白血病という病名が”白血病”でなかったらこのように多くの物語が紡がれただろうか。色のついた病名から我々はその病気にどことなくイメージを抱いてしまう。黒死病しかり、黄熱病しかり。白血病という病気が、”白血病”という名前ではなくて”黒血病”であるという世界があったならば、日本の物語のなかでこれだけ多くの少女は白血病で死ぬことにならなかったのではないか。白血病、という脱色されたニュアンスの病名は世界が少女に仮託する無垢、処女、繊細というイメージを煽っているのではないか。

英語やドイツ語ではleukemiaであって、調べてみるまで私はしらなかったが*1、そもそもこれはギリシャ語のleuko、すなわち白を意味し、leukocyte=白血球経由の病名である。しかしこれまで私は背景をしることなく単語として使っていた。だとしたら少しはギリシャ語の素養のある同僚達はやはり「白」のイメージを背景に病気を思い浮かべるのだろうか。・・・なんてことをいうのも、白血病のことをフランス人やドイツ人と仲間と雑談していたときに、少女が白血病で死ぬイメージの殿堂入りな気分は日本特有なのかもしれない、と突然思ったからだった。

*1:こんな便利なページがあった。 Prefixes, medical