カメルーン料理屋におけるガストロナショナリズムと連帯

件のカメルーン人留学生が、マンハイムにはカメルーン料理屋がある、というので、食べに行きたいときには一声かけろ、と言っていたのだが、スエーデンから帰ってきたときにちょうど電話。そんなわけで、夜に食べにいくことに。留学生ゲストハウスで彼をピックアップして、一路マンハイム。街はお祭りの最中で路駐にかなり苦労。店に入ったのは21時だったのだが、注文をしてからなんと待つこと一時間。これが普通らしい。想像を超える悠長さである。店は実にそっけないつくりで、壁にオウムの彫り物やカメルーンの旗、地図が白さの目立つ壁に無造作に掲げられている。店内にはカメルーン人しかいない。客達は特別サービスの日でビールが半リットル1ユーロだ、ということで、やたらとビールを飲んでいる。待っている間、黒人狙いのドイツ女が何人も電話かけてきて困る、というような話や、カメルーンにおける干し魚の使用法、今後の彼の目的などに関しておしゃべり。

私が注文したのは、これまた特別サービスメニューだという鯛。彼と同じものを頼む。付け合せはヤム芋から作った棒状のモチとサツマイモを揚げたもの(おそらく)である。後者はプランティンという名前だ、ということで、前回カメルーン人留学生と食べ物談義をしたときにどうしても想像がつかなかったのだが、食べてみて一瞬で納得。おー、これ日本でも冬に食べるぞ、といったらカメルーン人のウェイターは大喜び。魚の方は焼いた後に、構成が全く想像のつかないハーブや香辛料のペーストにくるまれていた。なにをまぜたものだ、と聞いてみるが、ドイツ語でも英語でも説明がつかない、という。とにかく香辛料の種類はたくさんある、それをたくさん混ぜるのだそうだ。なぞは深まるが、これが実にうまい。雰囲気としては味噌煮に似た状態なのだが、味噌煮のストレートさとは違うめくるめく味わい、とでもいうのか、さまざまな刺激が渾然一体としており、店内に横溢するカメルーン音楽の変拍子が異様にマッチする。うーむ、ここがカメルーンであればもっとよいのだろう、と窓の外を眺めながら思う。

僕は頭も食べるんですけど、と留学生はすまなそうに頭を食べ始めた。すかさず私が、いや、頭は一番うまいところだ、日本では頭だけでも売っている、といったら、目を輝かせて本当かー、やっぱりなあ、と深くうなずいていた。私は彼がなぜすまなそうな顔をしたのか、一瞬で解した。そう、ドイツ人だったら、え、魚の頭を食べるのか、おえー、っとしかめっつらするのである。彼はこの食堂に招いたドイツ人に顔をそむけられて少なからず傷ついてきたのだろう。私にも経験がある。でもそのうちわかる。ドイツは食に関しては下層文化である。フィッシュヘッドイーターである我々、すなわち南イタリア人、カメルーン人、日本人が正しいのだ。そんなわけで、私も頭の髄までいただいて、大満足。食後にお祭りの歩行者天国をふらふら散歩。これまた先週の盆踊りに引き続き、夏祭りな気分。焼き魚にはビール、なのである。次回は私の家に招いて、フィッシュスープ、すなわちアゴだしのお吸い物を供することを約束した。