Droog Designによるすわり小便野郎の擁護

Droog Design の10+1年展を見てきた。10年前はオランダデザイナーの若手集団鮮烈デビュー、ということだった。その後、デザイナーにしろ、建築にしろ、「オランダ若手」の90年代となるわけだが、今やそれを模倣しグローバリズムとセットにした郊外家具屋イケアが跋扈しており*1、私は展覧会なのにイケアのフロアを徘徊しているような気分になった。ネタとしておもしろかったのは、半透明のトイレの扉に、床をひたすら拭き掃除する母の姿を映し出す作品。どこにいっても男は「座って用を足してください」という貼り紙を人の家のトイレで見かける昨今であるが、そのたびに少々の反感と日常道徳に挟まれて複雑な気分になることしばしである。なにしろ、ドイツ語にはSitzenpinklerなる罵倒語がある。「すわり小便野郎」とでも訳せばいいか。この言葉はいわば、「女々しい男」なる意図で使われるが、もうすこし詳しい背景を説明すると、まわりに女しかいないような環境で育った男のことである。幼少時に立って小便することを習うことができず、小学校に入学するころになぜ自分以外の人間は立って小便をすることができるのだ、と仰天することになる。かくしてSitzenpinklerの誕生だ。ちなみに私もSitzenpinklerであった。父は普段家にいなかったのだが、ある日私が座って小便しているのを発見して、空をかきむしるように怒ったらしい。私は覚えていない。でもなんとなく想像がつくのは、彼自身が他に女3人しかいない家庭でずっと育ったので、たぶんSitzenpinklerだったのだろう。オ、オレの息子もSitzenpinklerか!なるコンプレックスの再来悪夢、である。などといったことを、想定される飛沫を悲しげに永遠に拭きつづける母親の姿を見ながら思ったのだった。

*1:日本にも来年開店するらしい。www.ikea.jp。fran franや無印良品の大敵となること間違い梨である。