テロに負けたスペインは何に勝とうとしているのか。

スペイン軍イラク撤兵、に関してなのだが、米国を中心に「スペインはテロに負けた」という認識があったりする。一方で、フランスのル・モンドは、「スペイン国民をバカにする珍説が流布されている」、と社説(余丁街散人さん)。

で、思うのだが「テロに負けるな」という土俵のどうしょうもないガサツさである。テロに負けてはいけない、という主張の根拠は、一度テロに屈したら、永遠にテロリストの膝元に屈しなくてはいけない、だから我々はなんとしてでもテロと闘わなくてはいけないのである、ということである。もう「ダイ・ハード」の世界。そりゃそうだろう。チンピラに因縁つけられて毎日カツアゲではたまったものではない。しかし、撤兵すること自体のスペイン内戦に対する影響はさておいて、今スペインが撤兵することは、「負けた」ことになるのだろうか。政権交代はテロへの屈服ではなく、政権のテロ対応への怒りだ、というル・モンドの主張は理解できる。が、それでも結果からみればスペインは負けたのである。なぜならば、選挙直前に設定された地下鉄爆破のねらいはまさにスペイン軍の撤兵すなわち米国連合からのスペインの離脱、だったのだから。テロリストの思うつぼ、だ。

でもこれは負けてもいい話なのではないか、と思う。上で説明したテロ絶対不服従の原理は、ただ単にその原理を盲信していたらそれこそ「教条主義」なのである。スローガンの盲目的連呼はその内容がなんであれ、人を殺すのだ。テロに頭を下げるぐらいだったら、私は腹を切る、という武士道なんだったら、ますますアホらしくて話にならない*1。今回のスペインの選択は、事実上テロに負けた、ということなのかもしれないが、スペイン自身のロングタームの外交戦略としてみれば、毒々モンスター状態の現米国政権から距離をおく、ということで事実上勝つことになるかもしれないのである。だったら今負けてもいいではないか。スペインの国民はテロに負けても、勝たなければいけない対象をそこに見た、ということなのだ。

などと思っていたら、ちょうど元レバノン大使天木さんの対米従属外交を批判する講演トランスクリプトがあったので、リンク。

琉球新報・第131回 琉球フォーラム 講演会・これでいいのか、日本外交

[引用]
いま外務省は非常にモラールが低下しています。それは結局国民を裏切ってまで対米追従外交をしてきた後ろめたさだと思うのです。これも驚きですが、最近日米地位協定の運用に関する外務省の考え方という極秘書類が出てきました。私はその書類のことは知らなかったのですが、私はある時のちに次官になった人が条約課長時代に作成した安全保障条約の解説書を読んでみろと渡されました。その調書は薄っぺらなものだったのですが、その中に「アメリカほど日本にとって重要な国はない。そのアメリカを、日本が攻撃された時にアメリカは本当に助けてくれるのかと疑うことは失礼だ」というくだりがありました。私は唖然としました。これが条約課長の書いた文章なのかと。そこには法的論理もなにもない、思い込みと言いますか、あらゆる議論がそこで打ち止めになっている。

今度の米国のイラク戦争について「米国を支持するほかに選択の余地がないじゃないか」ということとまったく同じ言い方ではないでしょうか。殺し文句になっています。思考停止です。

*1:「国民はあくまでもテロと戦う覚悟であります」的な某国首相発言。沈没しかかっている藪将にあくまでも寄り添う忠臣「殿、わたくしめも一緒に」、「コイズミ、ありがたう」という図式は、ハリウッドブシドウ的にはグッドかもしれんが、アホだし迷惑