米英軍によるイラク侵略後のイラク人死者10万人

一昨日ここでも触れたランセットの論文(PDFのリンク)について。戦争の現場で行われた調査だけに、迫真の内容で特に調査方法を詳しく記した部分はドキュメンタリーとしても読む価値がある。

During September, 2004, many roads were not under the control of the Government of Iraq or coalition forces. Local police checkpoints were perceived by team members as target identi.cation screens for rebel groups. To lessen risks to investigators, we sought to minimise travel distances and the number of Governorates to visit, while still sampling from all regions of the country.

などと、イラク暫定政府が事実上機能していないということを物語る場面などもでてくる。調査対象の決定方法だが、乱数表を用いてイラク内の各地域から特定の街を選び、さらに街をGPSを使いながらグリッド状に分割、乱数表を再び用いてグリッドの中から一つの区域を選び、GPSに従ってその区域に赴いて周囲30軒をインタビュー調査する、という手段。イラク国内の全域にわたって調査が行われたのだが、ファルージャの調査結果は他の地域に比べてあまりに死者が多く、なおかつ街を脱出して空き家になってしまった世帯が多々あるため、10万人という推計の計算からは除外されている。また、ファルージャではGPSを携帯しているというだけで米軍の関係者と疑われ、攻撃対象になる危険があるため、歩数をかぞえてグリッド分割したという涙ぐましいまでの努力。それにしてもデータを見てもらえばわかるのだが、ファルージャを包囲して徹底空爆を行った米軍の「テロリストだけを攻撃対象とするピンポイント爆撃」がいかに多くの市民をなぶり殺しにしたかがわかる。*1
対象の数が少ないという米国系ブログ界隈のイラク戦争サポーター達の意見が続出しているが、厳密な統計論に元づいて有意な結果がきっちり得られるようにデザインされた調査だ、という点に対するまともな批判は見当たらない。
ネイチャーが早速10月29日付のニュースでこの論文を取り上げている。いわば反論として、ワシントンDCにある国際戦略研究センターのジョン・アルターマンなる人のコメントが掲載されている。”危険な地域での調査は敬服する。でも、米英による介入が無かった場合の市民の死亡者は、クルド人虐殺などの例からすればもっと多かった可能性もあるではないか”といった無茶な意見を述べており、私は怒るというよりもヤレヤレ感で一杯になる。侵略前のデータがまさにそのことを示しており、米英による介入で一般市民の危険度が増大した、というのはあまりに明らかな結論なのだ。

*1:ファルージャの惨状に関しては、益岡さんの労作も参照することをお奨めする。