アザデガン油田の話。

id:svnseeds氏が素晴らしいリサーチ(id:svnseeds:20040224#p1)。根が深い話ということで、昨日id:svnseeds氏のところにコメントした「日本の反米ポーズなんじゃない」という単純きわまりない発言は撤回します。おもしろいんで、私も引き続きちょっと時間使って調べてみた。以下がそのまとまりのまりないメモ。要約すると、2点(1)国策としての自主採掘 (2)トヨタとイランの関係。むちゃ長いです。

石油の自主採掘か、市場依存か、というのはどうも議論の決着のついていない話で、まあ両面攻撃で、ということになっている。以下みたいな衆議院委員会の議論。

衆議院経済産業委員会第153回第6号 平成13年12月5日(水曜日)

  • 平沼国務大臣 ・・・(略)その中で、私は閣僚の中で一番早く石油公団の廃止というものを打ち出しました。しかし、そのときに私は、三つのことを担保しなければならない、これだけは譲れない、こういうことで申し上げました。▼ その一つは、今御指摘の、やはり日本はエネルギー資源の非常に乏しい国でありますから、そういう意味で、今、全エネルギー、一次エネルギーの五二%を占めている石油に関して、やはり自主開発をして、一たん緩急あるときに、それを備えておかなきゃいけない。▼ そのためには、今まで随分むだがあったけれども、そこを整理して、やはり自主開発のいわゆるリスクマネーも国が一部負担しながら、そして、外国、産油国もそれによって信用をして自主開発が進むような道、これはやはり国で管理しなきゃいけない。・・・(略)
  • 中山(義)委員 ・・・(略)だから、これから石油の問題というのは、確かに自主採掘、こういうことも大事だけれども、やはりいわゆる自由主義経済ですから、自由市場からとるとするとかなり外交努力というのも重要な部分になってくるんですけれども・・・(略)
  • 平沼国務大臣 イランとの間で日量七十万バレルのアザデガン油田という油田の優先採掘権に対して最優先権をもらいまして、これは順調に今推移をしております。早ければ三年ぐらいで最初の油が出てくるんじゃないか、こういうふうに私は思っています。▼ 今、産経新聞等に出た記事に関しては、(注・田中外務大臣がイランとの会談をすっぽかしたため、吉田外務委員長がイランで冷たくされた、という記事)サウスパルスというところのガス田だと思います。これに関しては、我々、石油公団を中心に今までやってきたサウスパルスの一部参加と、それからアザデガン油田というのは、これは微動だにはいたしません。新聞記事に出ていますのは、民間の別のところがやっているところに対して非常に冷たい意見が出た、こういうことです。

しかしながら、平沼国務大臣の石油公団解体断行は暖簾に腕押し、だったらしい。自主採掘、という担保がアダになった。アザデガン油田に関して、萬晩報で園田義明さんが、2003年6月29日の記事、「油屋さんの次なる標的」で言及していた。

(抜粋)
参加する企業連合は、国際石油開発(旧インドネシア石油)、石油資源開発トーメンの3社で、フィナンシャル・タイムズによれば、この企業連合の関係者が数日内の契約を結ぶためテヘランで今まさに待機しているようだ。契約近しのニュースは、6月27日付米ブルームバーグでも詳細に報道されている。

 実は、このアザデガン油田には採算を疑問視する声があるのも事実である。地表が石灰岩質で覆われているため、効率的な採掘は困難とする見方や、油質への疑問もある。

 しかし、2000年に失効したアラビア石油サウジアラビア・カフジ油田をめぐる交渉失敗のばん回を狙う経済産業省、2005年3月に廃止される石油公団の天下り先確保、再建中のトーメンの生き残り作戦などの思惑が絡む複雑な背景を持つ事業となっている。

 企業連合の国際石油開発(旧インドネシア石油)は、石油公団が50%出資しており、石油資源開発の石油公団の出資比率は66%である。この二社には、すでに多くの石油公団退職者が役員として天下っている。

・・・というわけで、確かに「石油公団 必 死 だ な 。」ってのもうなずける。石油公団の天下りの話はマタカヨ-、という話ではある(上のリンクに実名リストあり)。でもイランにおける自主採掘を国策とする、というのは、それはそれでいいんじゃないか、と私は思う。ただ、これが国策になるやいなや、平沼氏の言葉とは裏腹にわらわらと公団が天下ってくるところがまずい。解体したはずの石油公団が別の母体で企業連合として復活しているのはいかにも馬鹿げている。そして、この惨状から国主導はダメだ、という気分が醸成されるかもしれないが、公団的なるものを批判すべきで、国策にすべきかどうか、という点も一緒に却下するかどうかには検討の余地がありはしないか。

次の点に進む。この一件は単なる日本の対外ビジネスのお話しなのか?石油をゲットしに日の丸天下り役人満載の企業連合がイランで交渉成功させました、で納得していいのだろうか?だとしたら米国の横やりはなぜ入ったのか?イラン・日本・米国を巡る政治の話でもあるのではないか、ということで、石油公団の残りの要素、トヨタに注目というのが下の抜粋部分。園田さんの続き。

 そして、残る一社であるトーメン豊田通商との経営統合を念頭に経営再建中である。しかも、トーメンは、5月30日に約100億円の第三者割当増資の詳細を発表し、増資引き受けで、豊田通商は出資比率が現在の約11%から19.71%に高まり、新たにトヨタ自動車は10.64%を出資する2位株主となる。つまり、実質トーメントヨタグループ企業となる。

 トヨタ自動車現会長の奥田碩氏は、昨年、日本経営者団体連盟(日経連)と経済団体連合会経団連)が統合して発足した日本経済団体連合会日本経団連)の初代会長であり、政府の経済財政諮問会議のメンバーでもある。

(中略)

「今日、生まれた子供が最初に運転する車は、汚染のない水素自動車になるだろう。」

 日本では見逃されがちだが、今年1月のブッシュ大統領の一般教書演説の内容である。そして「水素・燃料電池イニシアチブ」という研究開発計画を打ち出した。今後5年間で12億ドルを投じ、2015年までに水素利用を商業ベースに乗せることを目指している。5月8日には、米エネルギー省が、5年間で1億5000万ドルを投じて、水素を利用する燃料電池自動車の開発を支援するプログラムを始めると発表した。

 また、6月16日には、エーブラハム米エネルギー長官とEUのビュスカン委員(研究担当)が、ブリュッセル燃料電池などの関連技術の研究開発を、米国と欧州連合(EU)が協力して進める覚書に調印する。

 燃料電池分野で先行する日本に対して、米欧が追撃姿勢を強化し、技術開発から市場を見据えた各国間の主導権争いへと進みそうだ。今回トヨタグループが狙われたのは、燃料電池を巡る思惑がある。

トヨタのイランコネクションについてもう少し。先行記事である園田さんの(2002年10月09日「ニュー・グレート・ゲーム2 油屋さんの危険なセールス・トーク」)より。

今年9月21日と22日に大阪で開催された国際エネルギーフォーラムで、トヨタ自動車グループは、イランで天然ガスから低公害軽油を生産する事業に参入する方針を固めた。日本、イラン両政府もこの事業を支援することで合意する。

 ペルシャ湾にある世界最大級のサウスパルス・ガス田を舞台にしたもので、GTL(ガス・ツー・リキッド)と呼ばれる新技術で、採掘した天然ガス軽油の替わりに使える燃料(低公害軽油)に転換する。

 英・蘭連合の国際石油資本であるのロイヤル・ダッチ・シェルとイラン国営石油化学公社が計画の中心で、日本からはトヨタ系商社の豊田通商と提携先のトーメン国際石油開発などでつくる企業連合が参加する。

(中略)

 GTL(ガス・ツー・リキッド)は、DMEジメチルエーテル)と並んで燃料電池用燃料として期待されている。イランに続いてサウジアラビアにも注目しておくべきだろう。

次の記事もトヨターイラン情報。少々かぶっているが、該当箇所引用。

トヨタ系商社の豊田通商は、イランで低公害軽油生産に参入へ(これからの自動車選び 今日の出来事 2002年10月17日より)

トヨタ自動車グループは、イランで天然ガスから低公害軽油を生産する事業に参入する方針を固めた。日本、イラン両政府も21〜23日まで大阪で開催中の国際エネルギーフォーラムで、この事業を支援することで合意した。こうした支援を背景に、次世代燃料を使う低公害自動車の技術開発でも他社に先行することを狙っている。この事業は、ペルシャ湾にある世界最大級のサウスパルス・ガス田を舞台にしたもの。GTL(ガス・ツー・リキッド)と呼ばれる新技術で、採掘した天然ガス軽油の替わりに使える燃料(低公害軽油)に転換する。総事業費は15億〜20億ドル(2000億円前後)で、7万2000バレルの低公害軽油を含む日量7万5000バレルの新燃料生産を見込む。 2004年1月にプラント着工、2005年末の生産開始を目指している。欧メジャー(国際石油資本)のロイヤル・ダッチ・シェルとイラン国営石油化学公社が計画の中心で、日本からはトヨタ系商社の豊田通商と提携先のトーメン国際石油開発などでつくる企業連合が参加する方向だ。関係者によると、トヨタ自動車の直接出資も検討されたが、「イランを『悪の枢軸』の一角とする米国を刺激しかねない」との配慮から見送られたという。GTLによる低公害軽油は、原油を精製してつくる従来の軽油に比べ、排ガス中の粒子状物質(PM)が4割、炭化水素が6割それぞれ少ない。硫黄酸化物は排出しない。また常温で液体なので自動車の燃料としてガスより扱いやすい。当面は現在の軽油に2割程度混ぜて、ディーゼルエンジン用に使う見込みだが、排ガス規制の強化に伴い、将来はGTL軽油100%で利用することが想定されている。トヨタ自動車はこれをにらんだエンジン開発にも取り組んでいる。
トヨタ自動車は小型トラック「ダイナ」にディーゼルエンジンに「平成17年排出ガス規制」(新長期排ガス規制)を先取りした低公害車を設定し2003年の秋、発売することを明らかにした。ふざけた会社だもっと早く新車を発売せよ。日本国民をなめている。 イランはロシアに次ぐ世界2位の天然ガス埋蔵量を持つ。特にサウスパルス・ガス田は可採埋蔵量が13兆立方メートルで世界1位とされる。ペルシャ湾地下でつながるカタールのノースフィールド・ガス田とともに、日本企業は新燃料開発の中心地として注目している。

というわけで、トヨタは次世代燃料開発・製造のための資材供給地として、イランにおけるプレゼンスを強めようとしているのだろう。経団連公認の日本経済戦略ということなのであり、アザデガン油田よりもなによりも、トヨタの目的はサウスパルス・ガス田。

米国から見ればイランにおける日本のプレゼンスには問題が二つ重なっている。一つは新聞も書きたてている、経済制裁ということでイランに手が出せない米国の権威、やや失墜の一方、欧州・日本が出し抜いている、ということ。これはメンツの問題でもある。「不快」。もう一つは先行する日本の次世代燃料開発とその戦略。「出遅れた」という焦り。こうした複合的な事情で米国が横槍、ということなのではないか。

以下、補足情報いくつか。

  • イランにおける欧州の大型案件制約例
    • 97年10月 フランス・トタール社等による海上ガス田開発プロジェクト契約(約20億ドル)
    • 99年11月 英蘭シェルによる海上油田開発プロジェクト契約(約8億ドル)
    • 00年 7月 イタリアENI社による海上ガス田開発プロジェクト契約(約38億ドル)
    • 01年 6月 イタリアENI社による陸上油田開発プロジェクト契約(約10億ドル)
  • 2000年10月 ハタミ大統領訪日の成果。
    • アザデガン油田開発に関する優先交渉権の獲得
    • 総額 30億ドル相当の原油輸入代金前払い
      • イラン国鉄向光伝送装置輸出案件(テヘラン∼バンダル・イマム/ホーラムシャー)NEC 丸紅 約5億円
  • サウスパルス・ガス田に関して
      • 東洋エンジニアリング日揮などで構成する企業連合はイランのペトロパルスからガス生成プラントを受注する最終交渉に入った。ペルシャ湾の大規模ガス田として有望視されているサウスパルス・ガス田の開発事業のうち、算出する天然ガスから液化石油ガス(LPG)などを生産するプラントを受け持つ」。
      • 天然ガスの確認埋蔵量は464兆立方フィート(13.1兆立方メートル)
      • 単一ガス田で世界の確認埋蔵量の8%に及ぶ
      • NGLで171億バーレルの埋蔵量になり、これをLPガスに換算すると日本のLPガス需要を向こう78年間賄える規模である。

というわけで、東洋エンジニアリングトヨタの関係がもっとわかるとおもしろいんだけど、調べられなかった。