出国・入国

ドイツの出国審査の際にパスポートを見せた。係官にいつからドイツにいる、と質問された。11年前から、と答えたら、とたんに緊張した険しい顔になった。ははーん、新しいパスポートだからスタンプないんで不法滞在を疑っているな、と了解。ごそごそと探して、EUの特別身分証明書を取り出して見せたら、わっはっは、と笑っていた。緊張が解けると人ってやっぱり笑うんだなあ、と思いながらゲートを後にした。もっとも、日本人に対しては出入国の滞在審査は甘いことが多い。知人には、滞在許可を半年過ぎていてもスルーした猛者がいる。まあ、出るのだったら勝手にしなさい、ということかもしれない。
日本の入国。パスポートを見せている間に、カウンターに新しい小さな機械が置いてあるのを発見した。大きさはミニステレオの本体ぐらい。バイオリズム測定装置のように、指を乗せる部分があり、デジタルカメラらしきレンズと、モニターがついている。最近日本に入国する非日本国籍の人間には指紋”押捺”と顔写真が両方義務化されたと聞いていたが、これかあ、と妙に合点*1。モニターのスクリーンセイバーには英語で”Welcome to Japan”と書いてあり、青空をバックにした鳥居が背景になっている。もうすこしゆっくりどうなっているのか眺めたかったのだが、もちろん立ち止まることはできなかった。押捺というよりもデジタル化されているので指紋のスキャンといったほうが正しいだろう。それにしても、これやられた経験がないとわからないと思うのだが、かなりの屈辱感である。よく言われるような、”犯罪者として扱われような気分になる”という説明、これは警察で指紋をとられた経験のある私にもわからないでもない気分なのだが、それよりももっと根本的にいやな気分になる。指紋をとられるというのは、どうにもこうにも無条件に侮辱されているような気になってしまう。私という存在の全体性が否定されるような気分になるからかもしれない。
税関では前にならんでいたアジア人の若い女の子が、とてもおどおどした感じでここではどうしたらいいの、と小さな声の英語で話しかけてきた。税金がかかるようなものを持っていないんだったらなにもありません、っていえばいい、とひそひそと教えてあげた。そうしたら通してくれるよ、と付け加えた。ああ、そうなの、といって審査官の前にたって「ありません」と応えた彼女は、なぜか速攻で別室に連行されていた。その様子を横目で眺めながら、私のアドバイスがまずかったような気がして、私は悪いことをした気分になってしまった。

追記

ブックマークのコメントから。

id:aksumi USA行きVISA取得・入国の際の指紋採取には、私は特に屈辱感も感じなかった. kmiuraさんの様に拘る方が多く、何故なのか気になる. "私という存在の全体性が否定"といってもパスポート提示には拘りないようであるし.

いやー、指紋採取がナンボ、という意見があるのも知っているのだけど、なんでいやなの?とあえて問われてしまうと、少々極端な例になるが、ヌーディストに、なんで性器を見せるのがいやなのと問われて、恥ずかしいという以外に説明に窮するというような感じである。といったらわかっていただけるだろうか。パスポート提示だって、本当はないほうがいい。
これは実名論争に関係するかもしれない。いやだと言っている人間の実名を晒し続ける感覚に、上のような理由で指紋採取を強制する感覚はどこか似ている。