絶句ばかりもしていられないので、続き
id:hotsumaさん経由で、イラク日本人外交官殺害事件についてのいろいろな意見を読んでみた。米軍がイラクを撤退するかどうかということと、日本が派兵すべきかどうかということを混同している意見などがあった。今米が撤退することはスンニ派とシーア派の民族闘争を引き起こし混乱する可能性があり、米の撤退方法については議論を深める必要がある(このことは最近の田中宇さんの報告に詳しいので参照)。しかし、このことと日本が派兵するかどうか、ということは別の話である。先遣隊150名、本隊500名計700名の自衛隊員がイラクに行く、というのは象徴的な意味しかない、という現実をます踏まえるべきだ。今後のメジャーな世論になると思われる意見の一つが次のようなものである。
「テロリストの企みに屈してはいけない。今回外交官が殺されたのは小泉である、という意見がみられるが、間違った見解だ。テロリストの企みは世界化しており、日本さえもそこに巻き込まれているのである。今派兵の方針を変更することは、テロリストに負けることであり、テロリスト追従でしかない。」
こうした言明に対していくつか思う点がいくつかある。
第一に私は今回の殺害の原因は小泉政権であると思う。天木元レバノン大使が警告していたのはこうした事態にほかならなかった。小泉政権が米国に全面的な追従の旗を揚げて金も人もだしてイラクに自衛隊を派遣します、と表明したこと、そのことの他に今回の事件の理由はない。日本の派兵に関する態度は欧米のメディアでかなり大きく取り上げられていた。小泉政権が金も人もだしません、といったら、この殺害計画はそもそもありえなかっただろう。この意味で外交官に死をもたらした原因は小泉政権である。そして更にその死を見殺しにした、という次の段階までもが加わる。
小泉政権のいうところの”国益”とはこのような形で日本人が標的になること、「日本人だから殺す」、「ましてや外交官だったら必殺」という死をも含むものなのである。だから、小泉政権が彼らを殺した、という比喩が生じるのは当然だ。そして小泉政権の不明瞭な判断(対米追従という意味ではあまりに明解だが)の結果、「日本人だから殺す」という立場にあまんじることになった日本人は覚悟ができているのだろうか。私には全くできていない。
第二に、テロリズムが跋扈しているから殺されたのであり、テロリズム根絶に立ち上がるべきだ、という点について。この意見は上記で説明した、小泉政権の挙動が原因であるという事実を、より大きな事柄(世界的なテロリズム)を持ち出し、その原因をあいまいに与えることで隠蔽するものにほかならない。プロパガンダではよく使われるテクニックだ。事実、私は米国の中学校で、「プロパガンダの典型例」としてこうした宣伝方法には注意しましょう、と国語の時間に学んだ(イラク戦争開始以来の米国メディアを見ていると、こうした教育はもはや行われていないのではないか、と思ってしまうが)。そして、今回の「テロ(レジスタンスでもいいが)」は無差別殺人ではない。要人の暗殺なのである。世界にテロリズムが拡散しているから起きた偶然の事故ではないのだ。
第三であるが、疑問である。テロリズム根絶のためにイラクに日本は派兵します、という理屈はいったいどこからどのように導きだされるのか。敵がどこにいるのか、誰なのかもはっきりしないのにとりあえず兵だけ送り出す、という態度は思考停止以外のなにものでもない。犬死を重ねるだけである。逆にテロを誘起し、攻撃対象になることが明白なのにもかかわらず「復興」の名を借りて兵を送り込むことは欺瞞である。「テロ」にも分類が必要だ。真に無差別なテロであれば、自然発生なのであるから、原因は自己増殖にほかならない。しかし攻撃対象がはっきりしているテロは攻撃対象がそもそも存在しなければ発生しない。存在が意識を生む、というタイプのテロである。思考を停止させ、すべての攻撃をテロ、と一緒くたにすることそのものがテロの原因になる。
今年初めからのイラク侵略における日本の立場は次のようであるべきだった。イラク侵略には反対し、連合(Coalition)には不参加を表明する。イラクの復興にのみ協力する。これまでの中東における日本の立場から、侵略に反対する形での復興援助は地元からも大いにサポートされたであろう。しかし、小泉政権が侵略に「大賛成」したために日本の立場は米の属国であり、手先でしかなくなった。我々はすでに、イラクにおけるなにものかの敵なのである。失ったものは大きい。そしてここでの日本派兵は象徴的な意味だけである。本気でイラク復興に携わろうとするならばまだしも、700人は憎悪増幅のネタにしかならない。立場をより大きく失う結果をもたらす。これは墓穴を掘る、という行為である。あるいは薮蛇だ。絶対に避けるべきだ。
米国の世論調査で知られるギャラップ社が、バクダットのイラク人1178人(解答率97パーセント)を対象に、9月に調査を行った。これによれば、米英の戦争の目的を4割が石油と考え、4割弱がフセイン打倒であるとしている。イラク人の救済、大量破壊兵器発見、としたものはそれぞれ数パーセントだった。かつての日本ならば、その派兵の目的が「イラク人救済」である、と信じてもらえたかもしれない。しかしいまや日本人は石油の分け前を預かろうとするチンピラにしか見えないだろう。日本人はこの短い一年足らずの間にアラブの信を失った。回復するのはたやすいことではないが、そのためにこそ努力すべきなのだ。